密室育児とはどんな育児?「密室」を生みやすい環境
密室育児とは、1日の大半の時間を母親と子供だけの環境で過ごす育児のことです。
こうした状況では、母親は子供以外の話相手がおらず、また育児について相談する機会もないことから、強いストレスや孤独感、不安感などを抱えてしまいがちです。
「密室育児」という言葉は、一般的にはこうした母親のストレスや子供の発育上の不安などを問題視した際に使われます。
家に閉じこもっていなくても「密室育児」
「密室」と言いますが、これは文字通りの「密室」を指しているわけではありません。
どこまでを密室育児とするかの境目は難しいですが、スーパーへの食料品の買い出しなど最低限の外出はしているものの、母子間でのみの交流しか見られないなら、それは「密室」において育児をしているとみなされます。
また、母親自身がそうした環境に孤独感や不満を覚えているかどうかもポイントです。
夫の協力が得られないときも密室化しやすい
密室育児は、父親である夫が育児に非協力的だったりすると、更に深刻化します。
夫が育児に協力的なら、妻も育児に対する不安を抱えにくくなり、「密室育児」に見えても母子の心は穏やかですし、週末に家族で外出する機会もあるでしょう。
しかし、もしそうではないのなら、母親の孤立感はますます高まり、子供も父親との関わりを持てずに、やはり「母子間のみの交流」しか体験しないまま成長していきます。
どこに住んでいても密室育児になる可能性はある
密室育児というと、「都会のアパートの一室で、母親の実家が近くにないときに起こる」というイメージがありますが、これは誤りです。
住む地域、母親の知り合いが多いかどうかに関わらず、その時の状況によっては誰でも密室育児になってしまうのです。
実家が近くても、分かり合える相手がいない
母親の実家が近くにあっても、もともと頻繁に行き来する関係ではなかったときは、実家の協力は得られにくく、母親の孤独感は和らぎません。
周囲に母親の友人がたくさん住んでいるとしても、その友人たちが独身で仕事や勉強に忙しいなら、自然と疎遠になってしまいますので、話し相手や相談相手にはなり難いでしょう。
のどかな田舎の「密室育児」
田舎は人と人の関わりがあると思われがちですが、車がなければ隣家まで行くのも大変な地域もあります。自治体の子育てサロンへ行くのも時間がかかり、保育園が存在せず、預かり保育には対応していない。現代の過疎化した地方では、同じ月齢・年齢の子供が地域内にほとんどいないケースも珍しくありません。
密室育児による弊害
母親の相談相手がいないとき、そして、家族である夫の協力が十分でないときは、密室育児になりやすくなってしまいます。実際のところ、密室育児は何が問題なのでしょうか。
母親に大きなストレスがかかる
密室育児で1番心配なのは、やはり子供と1対1で相手をする母親の精神的負担です。密室育児は、保育園や幼稚園入園前の3歳未満を養育中の母親が陥ることが多いのが特徴です。
話をする相手がおらず、孤独感に襲われる
いくら可愛い我が子とはいえ、赤ちゃんや幼児と1日中一緒にいると、「大人と会話をしたい」という気持ちがわいてきます。しかし、夫がほとんど家にいない場合、日々のちょっとした出来事や愚痴を話す相手がいません。そのため、母親は孤独感を深め、常に大きなストレスにさらされます。
現代はインターネットさえあれば、分からないことを解決したり、情報を収集したりすることは可能です。しかしながら、インターネットで検索するというのは、お母さん一人の孤独な作業です。
疑問に対する答えや必要な情報が得られたとしても、誰かに直接相談したり、話し合ったりしたときのような充足感は得られません。
子供の発育が正常なのか分からず不安
特に初めての子供のときは、「子供がきちんと発育しているのか?」ということが気になります。
同じ年頃の子供の親と接する機会が多いのなら、子供の変化に対しても「今はそういう時期なのね」と安心できるでしょうし、「うちの子もそうだったよ」といった言葉をかけてもらえることもあるでしょう。
しかし、知り合いの中に同じ年頃の子供の親や育児経験者がいないと、「もしかして、うちの子ちょっと問題があるのかな?」「まだ一言もしゃべらないのは遅すぎるのかな?」と不安が高まってしまいます。
インターネット上の交流の場で閉塞感は癒される?
インターネットは、掲示板やチャットを使ってコミュニケーションを取るためのツールとしても使えます。実際に顔を突き合わせて話すことに比べると、物足りなく感じるかもしれませんが、立場が似ているお母さんたちとインターネット上で話すことで、精神的な閉塞感が少しは癒されることもあるでしょう。
子供の社会性が発達しない
密室育児はお母さんの精神的な閉塞感を生むだけではありません。場合によっては、子供の性格に影響を与えることもあるのです。もちろん、性格は環境だけによって作られるのではなく、元々持って生まれた性質にも左右されます。
しかし、小さなときからは母親とだけしか触れ合って来なかった子供は、お母さん以外の大人や子供と触れ合うことに困難を感じやすくなり、非社交的になってしまう可能性があることは否めません。
「密室育児=悪」ではない!母子にとってのメリット
母親に精神的な閉塞感を与えるだけでなく、子供の社交性にも影響を与える可能性がある密室育児。このような面だけを見ると「密室育児は良くない」「密室育児にならないように、充分に注意しなくてはいけない」と結論付けてしまいます。
ですが、実際のところは、密室育児はネガティブな面しかないわけではありません。次に紹介するようなメリットも存在します。
母子の関係が深まる
密室育児とは、言い換えれば「お母さんと子供だけの生活」です。つまり、密室育児を行うことで、母親と子供の間に強力な絆が生まれるのです。
母親は子供だけに意識を集中させられますので、子供の一番の理解者になることができます。また、小さいときに子供の一番の理解者であったということが、母親にとっても子供にとっても一生に渡る温かな記憶として残ります。
愛情をたっぷりと与えることができる
焦らずとも、子供はいずれ必ず学校に行き、先生や子供同士との人間関係も生まれてきます。
それゆえ、まずは子供にはたっぷりと愛情を与え、人を信頼する気持ちを抱かせることが大切です。
密室育児の場合、他人との交流は少なくなってしまいますが、母親がたっぷりと愛情を注げば、子供は他人を信頼することを覚えます。
そうすれば、幼稚園・保育園・学校に行ったとしても、問題なく人間関係を築くことは可能です。
自分と合わない意見に悩まされることがない
子供にとっての祖父母や叔母、その他の人々が育児に関わってくれること自体は、喜ばしいことです。ですが、意見を頭ごなしに否定したり、育児方針を押しつけてきたりするなら、母親としては「納得できない!」という憤りになるのではないでしょうか。
しかし、密室育児なら、母親が納得できない方法を押し付けてくる人はいません。自分が良いと思う方法で、自分の子供を育てることができるのです。
密室育児を「ひきこもり育児」にしないための注意点
「密室育児」とほぼ同じ意味で、「引きこもり育児」という言葉が最近は話題です。乳幼児連れの外出を負担に感じ、ネット通販も発達したことから、買い出しにすらほとんど行かないという方も中には存在します。
先述した通り、「密室育児=悪」ではありません。しかし、1日の大半を母子だけで過ごす場合には気をつけたいポイントもありますので、解説します。
外遊びやお散歩の時間はもうけよう
乳幼児期の子供にとって外遊びは大切です。母親と子供の2人きりだとしても、天気の良い日は、近所を散歩したり、公園などで身体を動かしましょう。
人間の身体は、日光にあたることでビタミンDを合成します。しかし、乳幼児にビタミンDが不足すると、身体の骨が異常をきたす「くる病」を発症するリスクが高くなります。
そのため、歩けない赤ちゃんであっても日の光にあたることは重要ですし、外の空気を吸うことは免疫力を高める作用もあります。
また、運動不足は便秘の原因になります。歩けるようになったら、お家の中だけでなく、お外で思いっきり身体を動かしてあげましょう。ストレス発散という点からも、おすすめです。
テレビの見せ過ぎに注意
家で子供とずっと一緒だと、テレビをつける時間が長くなりがちです。しかし、日本小児科学会では、「2歳未満の子供にテレビやビデオを長時間見せることで、言葉や社会性の発達に影響がある」という指摘を行っています。
1日に4時間以上視聴する子は、4時間未満の子供に比べて1.3倍の割合で言葉の遅れが見られ、1日8時間以上視聴する子は、2倍の割合で言葉の遅れが見られたというのです。ただし、このデータは、現段階では、言語の発達とテレビの因果関係にやや疑問が残るものとなっています。
ですが、視力の低下も心配ですし、やはりテレビを見せている時間よりも、親子の触れ合いの時間が多いに越したことはないでしょう。1日の視聴時間を決め、テレビを見るときはできるだけ親も一緒に鑑賞し、「楽しいね」「〇〇があったね」などの声掛けをしましょう。
「密室育児」という言葉に追い詰められないで!
育児に対する協力が得られないことや精神的に閉塞感を覚えること、子供の社交性が育ちにくくなることは、密室育児の良くない側面です。「密室育児」に苦痛を感じている方は、一時保育や子育てサロンなどを積極的に活用しましょう。
一方で、「密室育児」に見えても、旦那さんのちょっとした気遣いや子供の成長によって、現状を前向きに捉えられるようになる方もいます。
密室育児と言う言葉に追い詰められるのではなく、良い面にも目を向けていくようにしてください。