広汎性発達障害の子の接し方

広汎性発達障害とは?自閉症との関係や特徴的な症状と接し方

広汎性発達障害とはどんな障害でしょうか?特徴的な症状、自閉症スペクトラムとの関係、広汎性発達障害の子はどんな子でコミュニケーションにどんな影響があるか、広汎性発達障害の原因、検査、診断、および治療方法について解説します。また、広汎性発達障害の子供と接する際のポイントも説明します。

広汎性発達障害とは?自閉症との関係や特徴的な症状と接し方

広汎性発達障害とはどんな障害?

広汎性発達障害(PDD)とは、社会性に関連する領域にみられる発達障害の総称で、軽度の人も含むと、全人口の0.5%~0.9%の割合でみられると言われています。広汎性発達障害には小児自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、小児期崩壊性障害、およびその他特定不能の広汎性発達障害が含まれ、障害の程度は人によりさまざまです。

重い場合は知的障害がみられることもありますが、知的能力に問題のない広汎性発達障害は「高機能広汎性発達障害」と呼ばれます。

「広汎性発達障害」は「発達障害」の一種

3種類の発達障害

近年、「発達障害」という言葉をよく聞くようになりました。有名人でも自身の発達障害について語る人がいたりしてメディアで取り上げられることも多く、関連書籍もたくさん出版されています。

発達障害には、大きく分けて、広汎性発達障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3種類があり、いずれもその症状が通常、低年齢において発現する、脳機能の障害であると定義されています。

広汎性発達障害と自閉症スペクトラム

また、最近聞くようになった言葉に「自閉症スペクトラム」というのもあります。発達障害と自閉症スペクトラムは同じ疾患と混同されることも多いようです。

米国精神医学会が2013年にまとめた「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」において、広汎性発達障害に分類される障害のほとんどが「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という新たな総称に統合されました。自閉症スペクトラムに含まれる障害は、小児自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害であるので、レット症候群以外は、広汎性発達障害=自閉症スペクトラムであるということになります。

AHDHと広汎性発達障害との違い

広汎性発達障害のなかでも特にアスベルガー症候群と、注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、共に知的障害のない発達障害であり、共通する症状もあるために、同じ障害であると誤解されることが多いようです。

ADHDは脳の前頭葉部分の機能異常であり、絶えずせわしなく動き回る「多動性」、注意力の欠如や注意が持続できない「不注意」、結果を考えずに判断・行動してしまう「衝動性」の3つの症状があるのが特徴です。
後述するように、広汎性発達障害の人は他人と関わることが苦手ですが、ADHDの人は社交的で人懐こい人も多くいます。

しかし発達障害は範囲が広く、厳密な線引きをして診断を下すのが難しい病気でもあります。似たような症状があって区別が難しい場合もあるため、現在ではアスペルガー症候群とADHDでは合併して診断するのも問題ないというスタンスが一般的になっています。

学習障害と広汎性発達障害との違い

学習障害は中枢神経の機能の問題により引き起こされるとの説が有力といわれますが、はっきりとした原因は分かっていません。学習障害のある子供では、知的な発達に遅れはなく他の能力には何ら問題がないのに、読む・書くなど特定の能力取得や理解のみに困難を示すことが多くみられます。

学習障害は2~3%の割合で存在すると言われているので、1クラスに一人はいる計算になります。広汎性発達障害と違って社会性やコミュニケーション能力には問題がないので、障害であると気づかれにくく、単に努力が足りないだけだと思われてしまうことも多い障害です。

広汎性発達障害の原因は?

障害もなく無事に生まれてきた赤ちゃん

広汎性発達障害の原因は、遺伝的要因と環境要因が複雑に影響しあって発現するという説が主流となっていますが、いまだ原因の特定には至っていません。

この遺伝説については研究が行われているものの、研究によって数値がまちまちで、親子の遺伝確率は明確には分かっていません。一つの特定の遺伝子によって広汎性発達障害が発現するのではなく、原因となりうるさまざまな関連遺伝子が重なることによる、多因子遺伝と呼ばれるタイプであると考えられています。

この関連遺伝子は多くの人が持っているもので、親が広汎性発達障害だからといって子供に100%遺伝するとは限りません。また、上の子が広汎性発達障害だからといって弟や妹も発症するわけでもありません。

発達障害については誤解されている面も多く、子供が怠惰なせいだったり親の育て方が悪いからだと言われてしまうこともあり、そのために悩む親も多いと思います。発達障害は脳機能の障害が原因でおこる疾患であり、親の育て方のせいではないと知ることが大切です。

どんな障害がある?広汎性発達障害の症状

広汎性発達障害の症状には、社会性や対人関係に関する障害、言葉の発達の遅れやコミュニケーション障害、行動と興味の偏り・限定と反復・常同的な特徴という、大きく分けて3領域での障害があります。以下で、それぞれの症状を詳しくみていきましょう。

対人的な反応に関する社会性の障害

発達障害を持つ赤ちゃんの足

広汎性発達障害の第一の症状は、社会性の障害として現れます。相手の気持ちがつかめない、空気が読めずに場にあった行動がとれないなど、対人関係の中での対応がうまくできないことがあります。社会性の障害については、以下の4つのタイプに分類できます。

孤立型

人に関心を示さず、人と関わるのを避けようとするタイプです。名前を呼んでも反応しなかったり、人と視線を合わせようとしなかったり、無表情でいることが多いようです。

受動型

自分から積極的に他人に関わることはありませんが、他の人からの接触には嫌がることはなく、言われたことになんでも従ってしまいます。ただし嫌なことでも受け入れてしまうので、あとでパニックを起こして固まってしまうことも。

積極・奇異型

積極的に他人と関わろうとしますが、自己本位で、一方的に話し続けたり、同じことを何度も言ったりします。

尊大型

人を見下したような言い方をしたり、人に対して横柄な態度をとったりしてしまうタイプです。

言葉の遅れとコミュニケーション障害

広汎性発達障害は、言葉の発達の異常やコミュニケーションの障害として現れることも多くあります。言葉の使い方が誤っていたり、上手に会話をつなげないなどの特徴があり、本人には悪気はなくても時に相手を傷つけてしまうことも。言葉やコミュニケーションの障害としては主に以下のような症状があります。

言葉の発達が遅い

文章にならず単語しか発しなかったり、オウム返しが多いという特徴を持ちます。

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会話が苦手

自分が一方的に話してしまったり、受け答えができないなど、会話のキャッチボールができません。

言葉を意味通りに解釈する(例え話ができない)

言われた言葉をそのままの意味で理解してしまうため、冗談や皮肉が通じなかったり、たとえ話なのに本当のことと誤解してしまうことがあります。

抽象的な言葉の理解が困難

抽象的な言葉の意味や文脈を理解することが難しく、例えばゲームのルールなどを理解することが困難です。

行動・興味・活動が限定・反復・常同的

怖がりで慎重な性格の男の子

広汎性発達障害の症状の大きな特徴の一つに、こだわりが強いことが挙げられます。ある特定のもの・ことに強い興味やこだわりがあったり、特定の行動がパターン化してそれ以外の行動を嫌がったりします。

いつもと違うということが苦手であるため、予定の変更や初めての場所などに苦痛を感じたり、食事へのこだわりも激しく偏食になることも。また、パターン化していない自由時間が苦手で、普段はできていることでも場所など条件がちょっと変わるとできなくなったりします。

広汎性発達障害のある人は、自分なりのこだわりを強く持っているので、やり方に少しでも変化があると対応できなかったり、パニックを起こして泣きわめくこともあります。

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広汎性発達障害・年代別の症状の特徴

広汎性発達障害を持つ子供では、その年代や発達の度合いによって、症状が発現しやすい領域に違いが出てきます。

幼児期(0歳~幼稚園)

広汎性発達障害は言語を含む社会性に関する発達障害であるため、その部分が未発達の乳幼児では症状が分かりにくく、この時期に広汎性発達障害であると診断されることはまずありません。

しかし、後に広汎性発達障害と診断された子供は、幼児期を通して、周りの他の子供にあまり興味を持たなかったり、質問にうまく答えられないなどのコミュニケーションの問題や、こだわりが強いなどの傾向があります。また、広汎性発達障害の子供は指さしをして興味を伝えることをしない子が多いようです。

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児童期(小学生)

小学生になると学校での集団生活において、広汎性発達障害の症状が現れやすくなります。

広汎性発達障害の子供は一人でいることを好むので集団生活になじむのが難しく、不登校になってしまうこともあります。また自分の気持ちを表現することも他人の気持ちを想像することも苦手なために、友人関係ができにくいと言えます。きちんとルールが決められている状態を好むので、臨機応変に対応するのは苦手な傾向にあります。

中学生以降

特にアスペルガー症候群の子供では、抑揚が一定の不自然な話し方をすることが多くなります。会話が苦手なために雑談など目的のない会話はもってのほかであることも。
その反面でものごとに強いこだわりを持っていることから、興味のあることにはとことん没頭して取り組み、その分野で大きな成果をあげる子供もいます。

広汎性発達障害の人に多い、感覚過敏

広汎性発達障害を持つ人の90%に何らかの感覚過敏の症状があるともいわれています。聴覚・味覚・視覚・触覚などの感覚のうち、特定の刺激に苦痛や不快を示すもので、例えば、機械音や雑踏の音が苦手だったり、視覚ではテレビコマーシャルの特定の場面に強い興味を示したり、洋服を着るときの皮膚に感じる触覚の刺激に過剰に反応したりということがあります。

ただし、感覚過敏な人=広汎性発達障害があるというわけではありません。あくまでも、広汎性発達障害を持つ人に、感覚過敏の症状が多くみられるということのようです。

広汎性発達障害の検査方法および診断

発達障害の療育に力を入れている病院

発達障害は診断が難しい病気でもあります。発達障害の疑いがあると思われる場合、検査と診断はどのように行われるのでしょうか?

広汎性発達障害の検査方法

広汎性発達障害の症状は、通常、幼児期早期よりみられるので、子供に何らかの症状がみられることにより疾患が疑われ、検査が行われることになります。

広汎性発達障害は、遺伝的要素も発症に関係していると考えられていますが、脳波や血液検査、遺伝子検査による検査方法は存在せず、出生前診断もできません。本人と保護者の問診、子供の行動観察、保護者や学校からの情報などをもとに、総合的に判断することになります。

広汎性発達障害の診断

広汎性発達障害の診断の基準となる規定には、WHO(世界保健機関)による「国際疾病分類」第10版(ICD-10)および米国精神医学会による「精神障害のための診断と統計のマニュアル」第5版(DSM-5)があります。
診断基準に基づいたテスト、診察室での面接と観察、家族・学校の先生・保育者などからの聞き取りを通じて、前述の3領域での症状を確認するとともに、発達過程における特徴も考慮にいれ、ICD-10およびDSM-5と照らし合わせて診断が下されます。

広汎性発達障害の治療

広汎性発達障害に対しては、原因が特定されていないこともあり、抜本的な治療方法は存在せず、基本的に障害を改善する薬物治療もありません。

医療的に治療が可能となるのは、広汎性発達障害を持つ子供が示す、てんかん、不眠、不安や恐怖などの情緒的・行動的問題を軽減する点のみとなり、広汎性発達障害児に関しては「療育」が基本となります。
療育とは、子供が障害を持ちながら成長し、生活するにあたって必要な支援を適切に行うリハビリのこと。広汎性発達障害によるコミュニケーション上の問題や言葉の遅れを、療育によって改善を試みるという治療になります。療育を行う上では、各々の障害の特徴、年齢や発達段階により課題が異なるので、医師と連絡を密にとりながら、個人個人に合った対応をすることが求められます。

広汎性発達障害の子供への接し方

広汎性発達障害の子供は、社会性に関する障害であるために日々の行動や言動に大きな影響があり、育てにくいと感じる人が多いかと思います。広汎性発達障害の特徴を理解した上で、適切な心構えと対応を心がけることにより、日々の生活を円滑に、少しでもストレスを軽減することが可能となります。

予習を促す・事前に説明する

のびのび元気に成長する発達障害の男の子

広汎性発達障害の子供は想像することや抽象的な説明が苦手な傾向にあるため、勉強や遊びのルールをすぐに理解し対応していくことができません。
初めての場所に行くときは、事前にどこに行ってどんなことが起こるのかを説明したり、勉強については常に予習をするようにするとスムーズに物事を進められるかもしれませんね。

不安や緊張を和らげる

不安な感情をためこみやすいというのも広汎性発達障害の子供の特徴です。
子供が不安そうな表情のときは、「しっかりしなさい」と不安な気持ちを叱咤するのではなく、「緊張するかもしれないけど、がんばろう」と緊張や不安を共感してあげることで本人が落ち着く助けになるでしょう。

気持ちを伝える

広汎性発達障害の子供は他人の気持ちを想像するのが困難なため、言わなくてもわかってくれるだろう、ということはありません。常に自分の気持ちをストレートな言葉にして説明してあげるといいでしょう。

恐怖心を与えないようにする

広汎性発達障害のある子供でも、チャレンジをするという体験は大切です。ただし、初めてのことやいつもと違うことに対して恐怖心を感じやすく、それがトラウマになりやすい傾向があるので、くれぐれも無理強いはしないで、ゆっくりと物事を進めるようにしましょう。

広汎性発達障害の子供の可能性を伸ばすために

広汎性発達障害を含む発達障害については、日本でもここ10年ほどでようやく注目されるようになってきましたが、まだまだ世間一般での知識や理解が十分に進んでいるとは言えません。周りの理解が得られずに、本人だけでなく親や家族もつらい思いをすることもあるでしょう。

社会生活では障害になることがある反面、とてもまじめでコツコツと物事に向かうことが得意な広汎性発達障害の子供は、興味のあることをとことん突き詰めることができるという長所もあります。
日本でも発達障害に関する理解が進み、障害を持つ子供たちや家族が安心して暮らせ、彼らが持つ可能性を存分に伸ばすことができるような社会にしたいものですね。