予防接種の任意は「受けても受けなくても良いもの」ではない?!
予防接種には予防接種法の対象となっている「定期接種」と対象となっていない「任意接種」があります。
「定期接種」だけ受けていればいいという考え方の方もいらっしゃるかもしれませんが、大切なお子様を危ない病気から守るためには任意接種も出来るだけ受けることをおすすめします。
なぜなら、任意接種の病気であってもかかってしまった場合は、命に関わったり、後遺症のリスクが伴っているからです。
予防接種の「任意」の必要性と定期接種の違い
予防接種は感染症を予防するためにはとても効果がありますが、種類がたくさんあり、接種の時期や分類がいくつもあるのできちんと理解しておきましょう。
まず、国や自治体が推奨している「任意接種」と個人の意思で受ける「定期接種」があります。
定期接種と任意接種の違い
「定期接種」は予防接種法の対象となっており、自治体や国が費用を負担してくれるため、接種時期になると自治体から予診票が送られてきて、ほとんどが無料で接種出来ます。
もしも、重い副作用が出た場合は国で補償されます。
一方、「任意接種」は、かかりつけ医師との相談によって判断し行われる仕組みになっており、行政が推奨しているものではありませんので特に予診票なども送られて来ません。
使用するワクチンは厚生労働省によって薬事法上の認可がされていますが、任意接種で健康被害を受けた場合は、独立行政法人医療機器総合機構法に基づく救済の対象となる場合があり、「定期接種」と比べて救済の対象や金額などが異なります。
日本は予防接種率が低い国
日本は欧米に比べて予防接種率が低いと言われています。
原因は、無料化されている「定期接種」のワクチンが少ないことと、予防接種の必要性と安全性が国民に理解されていないことが挙げられます。
任意の予防接種の副作用への対応は…
任意の予防接種によって健康被害が起こった場合は、独立行政法人医療機器総合機構法に基づく給付を受けることになります。定期接種のワクチンに比べると、補償金額は低く設定されています。
任意接種の金額は自治体の助成されていることも
自治体によっては、おたふくかぜ、ロタウイルスなどの任意のワクチンに関しても一部または全額の助成しているところもあります。
任意接種は医療費控除の対象になる?
任意接種は医療費控除の対象外です。医療費控除とは、病気の治療や療養を目的とするものが対象となり、予防接種の場合は、目的が病気の「予防」であるため、医療費控除の対象外となってしまうようです。
ただし、B型肝炎の患者が家族にいて、医師のすすめでワクチン接種をした場合は医療費控除の対象となります。
任意接種を受けるべきかどうかの判断に迷ったら
任意接種を受けるかどうか迷ったら、信頼できる小児科に相談してみるのも良いのではないでしょうか?また、保育園に行く予定があるか、兄弟がいるかなどの生活環境も判断基準になるでしょう。毎日、保育園に通う場合や、保育園や学校などに通っている兄弟がいる場合は、ウイルス感染の可能性は高くなります。
現在の任意接種の種類と費用の目安(2016年4月)
任意接種には、季節性のインフルエンザワクチンやロタウイルス、おたふくかぜワクチンがあります。費用は、有料なので接種するか迷ったら、かかりつけの小児科の先生に相談してみましょう。
費用は医療機関によって金額に差がありますが、これは自治体の助成金額の差や、医療機関が独自に決める「接種技術料金」によります。ワクチンの種類が違うわけではありませんので、安いからと言って心配はありません。
ロタウイルス
ロタウイルスに感染することで、急性の胃腸炎を引き起こし、乳幼児期にかかりやすい病気です。ロタウイルスは感染力が高く、ごくわずかなウイルスが体内に入るだけで感染してしまいまい、普通は5歳までにほぼすべての子供がロタウイルスに感染すると言われています。
ロタウィルスに感染すると…
大人はロタウイルスの感染を何度も経験しているため、ほとんどの場合症状が出ません。しかし、乳幼児はげしい症状が出ることが多くとくに初めて感染した時に症状がひどく出ます。
ロタウイルスは感染すると、2~4日の潜伏期間のあと、
- 水のような下痢
- 吐き気
- 嘔吐
- 発熱
腹痛の症状が出ます。合併症として、
- けいれん
- 肺機能異常
- 急性腎不全
- 心筋炎
などがあり、重症化するケースがあります。
ロタウイルスのワクチンの効果 接種回数・金額
ワクチンを接種することで重症化のリスクを下げるとともに、集団免疫効果も認められています。
ロタウイルスの予防ワクチンは2種類あります。
ロタリックスは2回接種
1.1回目は生後6週以後
2.2回目は4週間以上の間隔をあけて生後24週までに完了
ロタテックは3回接種
1.1回目は生後6週以後
2.2回目、3回目は4週間以上の間隔をあけて生後32週までに完了
一般的な料金は、ロタリックスが1回12,000円~15,000円、ロタテックが1回9,000~10,000円くらいです。
おたふくかぜ
おたふくかぜとは、ムンプスウイルスによる飛沫感染によって増殖したウイルスが全身に広がり、各臓器に病変を起こします。潜伏期間は2~3週間で、発病数日前から主要症状が消退するまでです。
おたふくかぜに感染すると…
おもな症状は、耳の下の部分の耳下線(じかせん)が腫れてきます。顎下腺(がっかせん)や舌下線(ぜっかせん)が腫れることもあります。また、発熱を伴うこともあります。
合併症として、無菌性髄膜炎、脳炎、すい臓炎などがあり、男性の場合は睾丸炎になり、将来子供が出来なくなることもあります。最近は特に難聴合併への注意が促されています。
おたふくかぜのワクチンの効果 接種回数・金額
おたふくかぜは、かかっても軽度の症状で治癒する場合が多いのですが、合併症となったときの危険性が高くワクチン接種がすすめられています。ワクチンの効果は80%程度と言われており、ワクチンを打っていたにも関わらず発症した人のほとんどが軽く済んでいます。
1歳過ぎから接種が出来、2回目は2~4年後に接種がすすめられていますので、1回目は1歳過ぎたら早めに接種した方が良いでしょう。一般的な料金は1回あたり6,000円~10,000円くらいのようです。
2016年10月よりB型肝炎ワクチンが定期接種に
厚生労働省は2016年10月からB型肝炎ワクチンを定期接種することを発表しています。その他にも、今後はおたふくかぜワクチンを定期接種にし、ロタウイルスに関しては検討中となっています。
B型肝炎ウイルスとは?
B型肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎を発症します。そのまま回復する場合もあれば、慢性肝炎になる場合もあるため注意が必要です。劇症肝炎という激しい症状が出た場合、命に関わります。
また、症状がでないままウイルスが肝臓の中に潜み、年月を経て慢性肝炎、肝硬変、肝がんなどになることもあります。年齢が低いほど、急性肝炎の症状は軽い一方で、ウイルスがそのまま潜んでしまう持続感染の形をとりやすいことが知られています。
感染は肝炎ウイルス(HBs抗原)の母親から生まれた新生児、肝炎ウイルス陽性の血液に直接触れた場合、肝炎ウイルス陽性者との性的接触などで感染します。
ワクチンは小児の場合、肝炎の予防というよりは持続肝炎を防ぎ、将来発生するかもしれない慢性肝炎、肝硬変、肝がんの発生を予防することが目的となっています。
ここ数年で任意接種から定期接種に変更になったワクチン
実際に日本でも、任意接種だったワクチンも定期接種化が進んできています。最近、定期接種に変更になったものに、ヒブ、肺炎球菌、HPVのワクチンがあります。それ以外にも、今後はB型肝炎ワクチンとおたふくかぜが定期接種になることが決定しており、ロタウイルスのワクチンも定期接種に変更が検討されている段階です。
ヒブ(2013年4月より定期接種)
Hib(ヒブ)感染症とは、ヘモフィルスインフルエンザb型菌という「細菌」によって発生する病気です。インフルエンザ菌は7種類に分類されますが、特にb型の重症例が多いため、ワクチンとしてb型が使われています。
ほとんどの場合が5歳未満で発生し、特に乳幼児での発生は重症化しやすいため注意が必要です。主に気道の分泌物により感染を起こし、症状がないまま菌を保菌して日常生活を送っている子供が多くいます。
この菌が何らかのきっかけで進展すると、肺炎、敗血症、髄膜炎、化膿性の関節炎などの重篤な疾患を引き起こすことがあり、このような症状を起こした場合、3~6%が亡くなってしまうと言われています。
また、特に髄膜炎を起こした場合は、生存できても20%に難聴などの後遺症を残すとも言われています。ワクチン接種により、Hibが血液や髄液から検出されるような重篤なヒブ感染症にかかるリスクを95%以上減らすことが出来ると報告されています。
ヘモフィルスインフルエンザb型菌は、毎年冬に流行する季節性インフルエンザウィルスとは違います。
肺炎球菌(2013年4月より定期接種)
肺炎球菌感染症は、肺炎球菌という細菌によって発生する病気で、ほとんどが5歳未満で発生し特に乳幼児では重症化リスクが高いため注意が必要です。主に気道の分泌物により感染を起こし、症状がないまま保菌をして日常生活を送っている子供も多くいます。集団生活がはじまるとほとんどの子供が持っていると言われる菌で、主に気道の分泌物によって感染します。
しかし、これらの菌が何らかのきっかけで進展すると、肺炎や中耳炎、敗血症、髄膜炎、血液中に菌が侵入するなどして重篤な状態になることがあります。特に髄膜炎になってしまった場合は、2%の子供が亡くなり、生存した10%に難聴、精神発達遅滞、四肢麻痺、てんかんなどの後遺症を残すと言われています。
ワクチン接種により、肺炎球菌(ワクチンに含まれる種類のもの)が血液中や髄液から検出されるような重篤な肺炎球菌感染症にかかるリスクを95%以上減らすことが出来ると報告されています。
HPV(2013年4月より定期接種)
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、約50%の女性が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスです。しかしながら子宮頸がんを始め、肛門がん、膣がんなどのがんや尖圭(せんけい)コンジローマなど多くの病気の発生に関わっていることが分かってきました。特に、近年若い女性の子宮頸がんが増えていることもあり、問題視されているウイルスです。
HPVに感染すると、ウイルスが自然に排除されることもありますが、そのままとどまることもあります。長い時間排除されずに感染したままでいた場合、子宮頸がんが発生すると考えられています。HPVワクチンは、新しいワクチンのため、子宮頸がんそのものを予防する効果はまだ確認されていません。
ワクチン接種により、ワクチンが対象としているウイルスによるがんの前段階への進行のリスクを90%以上減らすことが出来ると報告されており、子宮頸がんの予防も期待されています。HPV感染自体は男性でもあることから、男の子への予防接種も必要とも言われています。
水痘(2014年10月1日から定期接種)
水痘(すいとう)とは、一般に水疱瘡(みずぼうそう)として知られています。水痘帯状疱疹ウイルスに感染することで、引き起こされる発疹性の病気です。空気感染、飛沫感染、接触感染により感染し、潜伏期間は感染から2週間程度と言われています。
発疹の発現する前から発熱が見られ、典型的な症状では、発疹は紅斑(皮膚の表面が赤くなる)ことから始まり、水疱、膿疱(粘度のある液体が含まれる水疱)を経てかさぶたになり治癒するとされています。主に小児の病気で、9歳以下での発症が90%以上を占めると言われています。
小児における重症化は、熱性痙攣、肺炎、気管支炎などの合併症によるものです。まれに成人でも発症し、成人で発症した場合は水痘そのものが重症化するリスクが高いと言われています。ワクチン1回の接種で重症の水痘をほぼ100%予防でき、2回の接種により軽症の水痘も含めて発症を予防出来ると考えられています。
重症化のリスクを回避する予防接種は定期も任意もとても大切
「定期接種」「任意接種」に関わらず、ワクチンは病気を予防するためにはとても有効です。
お子様を病気から守り、合併症などによる重症化のリスクを下げるためにはなるべく接種することをおすすめします。
ただし、任意接種の費用は決して安いものではないですし、副作用のリスクが伴うことも考慮しないといけません。
それぞれの状況にあわせて、また病気の症状や流行する季節ワクチンによる予防効果や接種時期、副作用のリスクなどをきちんと理解した上で、生活環境、費用などを含めて判断するようにしましょう。