差し乳は母乳不足のことではない
「差し乳」や「溜まり乳」と母乳の出方によっておっぱいを区別することがあります。聞きなれない言葉ですが、それぞれの特徴を知れば「なるほど!」と納得するはず。実は、おっぱいが張らない=母乳不足とは限らないのです。
差し乳の特徴や溜まり乳との違い、デメリットとその対処法をご紹介します。母乳育児中のママは、母乳が足りているか不安になるものですが、おっぱいのタイプを知り、トラブルにも適切に対処しましょう。
差し乳とは?溜まり乳との違いを解説!
「差し乳」や「溜まり乳」は医学用語ではありませんが、一般的に、張らないおっぱいを差し乳、張るおっぱいを溜まり乳と呼んでいます。母乳の出方により分けられる、それぞれのタイプの特徴を詳しくご紹介します。
差し乳は、おっぱいが張らず搾乳しても母乳があまり出てこないのが特徴
普段はおっぱいが張らないのに、授乳を始めると自然に母乳が出てくるお乳を「差し乳」といいます。
差し乳の特徴には、以下があります。
- おっぱいが張ることがあまりない
- 授乳を始めるとジンジンとおっぱいが張るように感じ、母乳がどんどん出てくる
- 搾乳しても母乳を搾ることができない
差し乳タイプの方の場合、赤ちゃんの授乳間隔が長くあかない限り「乳房が張る」「おっぱいが溜まる」といった自覚がなかなかありません。
「差し乳は母乳量が少ない」は誤解であり、母乳の出とは無関係
おっぱいが張らないと、母乳不足を心配するママも多いでしょう。差し乳の場合、搾乳をしても母乳がほとんど出なかったり、搾れる量が少ないため、なおさら不安に感じてしまいます。しかし、差し乳でも赤ちゃんに必要な母乳は作られており、差し乳だからといって母乳量が少ないわけではありません。
乳汁分泌ホルモンである「プロラクチン」は、分娩後に働きを強め、母乳が作られます。作られた母乳は、赤ちゃんがおっぱいを吸うことで分泌されるホルモン「オキシトシン」により外へ押し出されますが、搾乳だけでは上手くオキシトシンが分泌されません。
搾っても母乳が出ないのは、母乳が作られていないからではなく、乳首への刺激が足りないことが原因。差し乳の場合、搾乳量と母乳分泌量は比例しないということを覚えておきましょう。
溜まり乳は、常におっぱいが張り、母乳パッドが手放せないのが特徴
「溜まり乳」は、差し乳とは反対に、授乳していない時にも乳房が張り、母乳が溜まっている状態です。これは、ママの体質や乳腺の発達、オキシトシン反射が強いことなどが影響しています。
- 常におっぱいが張っている
- 乳首から母乳が染み出し、母乳パッドが手放せない
- 乳房が張って痛い、乳腺炎になりやすい
溜まり乳タイプのおっぱいの持ち主は、おっぱいの張り具合でそろそろ授乳の時間だなということが自分の感覚として分かります。
溜まり乳は「母乳量が多すぎる」という悩みを抱えやすい
母乳がたくさん出るのは良いことのように感じますが、乳房の張りは痛みを伴い、乳腺炎を起こすリスクが高まります。吸い付くと勢い良く母乳が出ることから、赤ちゃんがむせてしまうこともあります。
溜まり乳のママの場合、母乳がたくさん出過ぎる「母乳分泌過多症」になり、乳腺炎などのトラブルを引き起こしやすいので要注意です。溜まり乳により頻繁に乳腺炎を繰り返す場合は、母乳外来のある産婦人科に相談しましょう。
差し乳や溜まり乳は、ママ自身が選べるものではありません。差し乳でも溜まり乳でも、自身のおっぱいの特徴を知り、それぞれに合ったトラブル解決法を見出していくことが大切です。
「溜まり乳→差し乳」・「差し乳→溜まり乳」に変わることもある
差し乳や溜まり乳は、時期により変わることもあります。特に、溜まり乳から差し乳へ変化することが多く、おっぱいが張らなくなった…と心配するママもいます。
赤ちゃんの飲む量が増える・授乳が上手になると「溜まり乳→差し乳」になりやすい
生まれたばかりの赤ちゃんは、母乳をたくさん飲むことができないため、ママのおっぱいは張りがちです。生後2~3ヶ月頃になると、赤ちゃんがたくさん母乳を飲めるようになるため、張りを感じなくなります。
溜まり乳から差し乳に変化すると、母乳量が減ったのでは?と不安になりますが、赤ちゃんが母乳を飲むのに慣れ、母乳量が安定してきた証拠なのです。
溜まり乳から差し乳になりました
りんごちゃん(30代後半)
上の子の時は最後まで溜まり乳で、下の子も出産直後は溜まり乳でした。
しかし、生後2ヶ月を境に時からあまりお乳が張らなくなりました。「おかしいな…」と母乳の出が悪くなったのか心配していると、赤ちゃんが吸ったタイミングでおっぱいにツーンとした感覚がありました。その後も母乳が出ていたので、この頃に差し乳に変わったんだと思います。
溜まり乳、差し乳、どちらも経験しましたが、差し乳は張りがないので日常生活が過ごしやすいです。溜まり乳だとしこりが出来たりしてすごく辛いことが多いので、差し乳で良かったなと思います。
差し乳はある日突然に…
結城亜里(40代前半)
40代に入ってから出産。出ないのではと心配していた母乳も、溢れるほど出て一安心していました。幸い乳腺炎にもならず、順調に育児をしていた4カ月目。それまではどちらかというと溜まり乳だったのに、ふと気がついたらなんだか飲む間隔が空いているのに張らない。気が付いたら差し乳になってました。
差し乳は、子供が直に飲むときはとくに困ることもありません。しかし、搾乳には本当に苦労しました。搾乳器の吸着が上手く行かず、時間がかかって痛い思いをしました。ですが、おっぱいがぱんぱんに張って痛い!という体験も差し乳になってからはありませんでした。
授乳間隔が空いてしまうときでも、あまり困らずに過ごせたので、楽といえば楽です。
差し乳で母乳育児を終えられそう
佐々木優花(35歳)
元々お乳の分泌が良い体質だったのか、産後数日から胸がパンパンに張りました。赤ちゃんはまだ小さく哺乳力も弱く、上手く飲む事ができず生後3ヶ月位まで溜まり乳でした。幸い乳腺炎にはならなかったのですが、胸がパンパンになりしこりができたことがありました。
生後3ヶ月くらいになると、赤ちゃんが飲む量と生産されるお乳の量のバランスがとれてきて、差し乳になりました。現在1歳を過ぎてもオッパイ大好きな子供で、飲んだり飲まなかったりの差が激しいのですが、完母できています。授乳間隔が開いてもそれほど胸が張ることもなくトラブルもないですね。
オキシトシン反射が強いと「差し乳→溜まり乳」になる
赤ちゃんが上手におっぱいを吸えるようになると、その刺激で母乳がどんどん作られ、最初は差し乳であったママが溜まり乳に変わることもあります。
差し乳の場合、赤ちゃんが母乳をしっかり飲めているか不安で、必要以上にミルクを足してしまいがちです。しかし、例え差し乳であっても、ミルクの前には母乳を飲ませるようにし、根気よく頻回授乳を続けることで、授乳量は安定してきます。
差し乳のメリット
赤ちゃんが母乳を飲めているか心配にはなりますが、差し乳はママの生活にはメリットが多くあります。おっぱいが張らない差し乳のメリットをご紹介します。
おっぱいが張らないため授乳時間が空いても気にせずに過ごせる
差し乳だと、授乳時間が開いてもおっぱいに痛みを感じずに済みます。産後、赤ちゃんを預けてママのみで外出する際も、搾乳や圧抜きの必要もなく、面倒がありません。母乳パッドが不要な方も多く、経済的でもあります。
母乳が詰まる乳腺炎やしこりなどのトラブルが起こりにくい
差し乳は、乳腺炎などのトラブルが起こりにくい傾向にあります。授乳時間が開いても、張りや痛みを感じませんし、母乳が溜まってしこりができることもあまりありません。
差し乳のデメリット
差し乳は、メリットが多いように感じますが、もちろんデメリットもあります。差し乳のデメリットも知って、トラブルが起きないようにしましょう。
搾乳が難しく母乳を保存できない
急な外出や体調不良などで、ママが授乳できない時は、搾乳した母乳を保存しておくと便利です。しかし、差し乳の搾乳は難しく、保存できるほどの母乳が搾れないことがあります。
差し乳の場合、赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によりどんどん母乳が出てきますので、授乳中に搾乳すると良いでしょう。また、乳頭マッサージをしてから搾乳をすると、スムーズに母乳が出てくることもあります。
母乳が足りているか常に不安/体重のチェックが欠かせない
おっぱいが張らないと、母乳がしっかり出ているか分からず、多くの差し乳ママが、母乳不足を心配しています。
母乳不足が心配な時は、赤ちゃんの体重増加を確認してみましょう。母乳を飲ませる前と後で体重を計れば、どれくらいの母乳を飲めているか確認できます。しっかり母乳が飲めていれば、成長曲線に沿って体重は増えていきます。成長曲線は、母子手帳で確認できますので、体重増加の目安に活用しましょう。
差し乳の場合、ミルクを与えてしまいがちですが、体重増加を確認し、あくまで足りない分のみをミルクで補うのが良いでしょう。ただし、ミルクとの混合にする場合は、飲ませる順番に注意が必要です。哺乳瓶のミルクは、吸う力が弱い赤ちゃんでも簡単に飲めるため、母乳を嫌がる乳頭混乱を起こすことがあります。
乳頭混乱で母乳を飲まなくなると、さらに母乳量が減るという悪循環に陥ってしまいます。母乳を先に飲ませてからミルクを与える、哺乳瓶の乳首を変えるなどして、乳頭混乱を防ぎましょう。
常に不安な授乳生活
ゆうママ(38才)
二人目を出産後、差し乳でした。赤ちゃんが2462gと小さく生まれてきたこともあり、しっかり母乳をあげたかったので、母乳がきちんと出ているのか不安でした。
一人目のときは溜まり乳で母乳をあげているときもおっぱいが軽くなるのがわかってしっかり飲めているなとわかったのに、二人目のときはおっぱいがなかなか張らないので、授乳しながら常に不安でした。
そのため、ベビースケールを購入し、赤ちゃんの体重をこまめに測ることにしました。結局、断乳まで差し乳で育てることができたので問題はなかったのですが、二人目なのに、一人目より神経質な母乳育児になったと思います。
最初の母乳の出が弱いので授乳時間が長くなりがち
差し乳の場合、赤ちゃんがおっぱいを口に含んでから母乳が出るまでに時間がかかり、授乳時間が長くなる傾向にあります。一生懸命吸っているのになかなか母乳が出ず、空腹から泣き出してしまう赤ちゃんもいるため、ママも辛くなってしまうのが難点です。
母乳がスムーズに出るよう、差し乳のママは、左右のおっぱいを短時間で交換しながら飲ませてみましょう。交互に繰り返し授乳すると、母乳が出やすくなります。
授乳時間が長いと夜中は辛い
やまあき(30代後半)
生後3カ月頃から差し乳になりました。それからは、他のママに比べると頻回に授乳していたと思います。また、1回の授乳時間も長かったです。「差し乳だから」と理解してはいても、赤ちゃんがゴクゴク飲めている感覚がないので、やっぱり心配でした。
日中はまだ我慢できるのですが、夜中は頻回授乳+授乳時間が長いので、母子ともに少し疲れました。胸が張って痛いこともなかったので、メリットもあるのですが、一長一短っていうやつですかね。
授乳回数が少なくなりがち
おっぱいが張らないからと、ミルクばかりを飲ませてしまうママもいますが、それは逆効果。赤ちゃんに乳首を刺激してもらわなければ、母乳の量は増えていきません。差し乳ママは、授乳回数が少なくなりがちですが、頻回授乳を心がけ、赤ちゃんにたくさんおっぱいを吸ってもらうようにしましょう。
差し乳の特徴を理解して母乳育児をスムーズに進めていこう
差し乳や溜まり乳には、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが良い・悪いということはありません。しかし、おっぱいが張っていなくても、赤ちゃんが吸うことで母乳が出てくるということを知っていれば、不安にならずに済みます。
差し乳にしても溜まり乳にしても、特徴を把握してトラブルを回避し、自分に合った授乳スタイルを見つけていくことが大切です。自信を持って母乳育児を続けていきましょう。