母乳の成分が果たす役割
母乳の成分とは?赤ちゃんが母乳だけで大きくなれる理由
母乳の成分とは?生後6ヶ月未満の赤ちゃんにとって唯一の食事である母乳の栄養素を解説。なぜ赤ちゃんは母乳だけで大きくなれるのか、母乳の栄養素について迫ります。粉ミルクと母乳の成分やカローに違いはあるのか、初乳だけに含まれる成分が果たす役割、栄養満点の母乳を作る方法も紹介します!
母乳の成分は主に7つ!それぞれの栄養素が果たす役割は?
赤ちゃんは生後6ヶ月頃まで母乳だけを飲んでいるにも関わらず、すくすくと育ちます。
出生時は3キロ前後だった体重は、生後6ヶ月には平均6キロ~9キロにもなり、母乳だけでも2倍倍以上、3倍近くも体重が増加するのです!
また、WHOによる世界の卒乳の平均年齢は4,2歳というデータもあります。4歳以上も母乳を飲んでいるというのは、単に授乳に対する意識の違いだけに留まらず、栄養状態の悪い国では母乳が乳幼児にとって欠かせない栄養源となっているという背景も存在します。
母乳に入っている主な成分と、それぞれの栄養素が果たす役割を見ていきましょう。
タンパク質
筋肉や皮膚、臓器、血液、毛髪、骨、リンパ液など、人の身体を構成するほとんどのものは、タンパク質で構成されています。例えば、細胞1つを見ても、大多数は水分で構成されていますが、水分の次に多い成分はタンパク質です。タンパク質が不足すると赤ちゃんの身体の成長を阻害してしまうことになりかねません。
また、タンパク質にはさまざまな役割があり、それぞれのタンパク質が身体を動かしたり、筋肉を収縮させたり、免疫機能を働かせたり、成長を促したりといった生命活動に欠かせない役割を果たしています。
アミノ酸
タンパク質の原料となる成分がアミノ酸です。アミノ酸が数百以上繋がって、タンパク質を作ります。つまり、良質なアミノ酸が不足するとタンパク質の合成量も減ってしまい、赤ちゃんの成長や健康維持が阻害されてしまうこともあるのです。
脂肪
脂肪はエネルギー源として、身体を動かす元となります。また、脂肪は皮下や内臓の周辺に脂肪酸という形で蓄えられて必要に応じてエネルギーに変換されますので、備蓄用エネルギーとしても使われています。
ビタミン
ビタミンには、ビタミンAやビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、B2、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸、ビオチンなどの種類がありますが、母乳にはこれらのいずれのビタミンもバランスよく入っています。
ビタミンA
ビタミンAは、特に成長や抵抗力の向上に欠かせないビタミンで、不足すると骨や歯・皮膚などが発育不全になってしまいます。また、眼球の乾燥を防ぐ効果もあります。
ビタミンAは、脂肪と一緒に摂取すると吸収率が高まります。母乳には脂肪もしっかりと含まれていますので、ビタミンAを効率よく吸収できるのです。
ビタミンD
ビタミンDには、カルシウムとリンの吸収を高める役割があります。母乳にはカルシウムとリンが豊富に含まれており、ビタミンDと同時に摂取することで効率の良い吸収が期待できます。
ビタミンE
ビタミンEは、血液循環を良くするために欠かせないビタミンです。また、ビタミンEには抗酸化作用があるので、細胞だけでなくタンパク質やビタミンAなどの成分の老化も防ぐ効果があります。
ビタミンK
ビタミンKには、血液が凝固するのを防ぐ効果があります。一般的には腸内細菌によってビタミンKが合成されますので、積極的に摂取しなくても欠乏症になることはほとんどありません。
しかし、乳児は腸内細菌自体が少ないですので、母乳などのビタミンKが入った食べ物を摂取しないと欠乏症になってしまうことがあります。
ビタミンB
ビタミンB1は糖質の代謝をスムーズにする役割があり、糖質を分解して脳や神経に必要なエネルギーを送ります。また、ビタミンB2は脂質の代謝をスムーズにする役割があり、脂質の分解や皮脂量の調整と強く関わります。
ビタミンC
ビタミンCには、アレルギー反応や風邪などの感染を予防する働きがあります。また、タンパク質の約3分の1を構成するコラーゲンの生成にもビタミンCが強く関わりますので、ビタミンCが欠乏すると身体の基礎であるタンパク質も不足することになります。
ビタミンCは比較的短時間で体外から排出されるため、母乳のように毎日こまめに飲むものに含まれていることは、理想的なビタミンCの摂取方法と言えます。
ナイアシン
ビタミンB1と同じく、糖質の代謝に欠かせないナイアシン。皮膚の発育や消化器系の働きを促進させる効果もあります。
パントテン酸
パントテン酸は、三大栄養素である脂質とタンパク質、炭水化物のすべての代謝に不可欠なビタミンです。また、神経中枢を発達させる役割もあります。
ビオチン
アミノ酸や脂肪酸が、正常に代謝するのに欠かせないビオチン。ビタミンKと同じく腸内細菌から作られるので通常はビオチン欠乏に陥ることはないのですが、赤ちゃんは腸内細菌が少ないので、母乳などのビオチンが入った食事を取ることが必要になります。
ミネラル
母乳の中には、ナトリウムやカルシウム、カリウム、マグネシウム、リン、亜鉛などのミネラルもバランスよく含まれています。
ナトリウム
細胞の水分バランスを整える役割を果たすナトリウム。カリウムと共に電気信号を発生させて、神経や筋肉を動かす指令を出す役割も果たします。
ナトリウムは汗や尿によって体外に排泄されますので、汗をかきやすい赤ちゃんは母乳でしっかりとナトリウムを補給する必要があります。
カリウム
カリウムはナトリウムと一緒に、細胞中の水分バランスをとったり、神経や筋肉を動かすための電気信号を発生させます。その他にも、血圧のバランスを取る際にも、カリウムは欠かせない成分です。
カルシウム
カルシウムは、骨や歯の元となる成分です。骨や歯だけでなく血液中にも含まれ、細胞間の信号のやり取りや脳や心臓などの臓器の活動にも影響を与えています。
マグネシウム
マグネシウムは、カルシウムやリンと同様、骨や歯を作るために欠かせない成分です。また、エネルギー代謝を正常に保ったり、神経の興奮を鎮静化させる役割も果たしています。
リン
リン酸塩の形で骨の中や細胞内に貯蔵されるリン。リンは遺伝子を構成する成分でもあり、エネルギーの代謝や神経伝達成分の生成にも関わっています。
亜鉛
亜鉛は、代謝に不可欠な酵素を生成したり、維持するのに欠かせないミネラルです。欠乏すると味覚障害や甲状腺機能の低下が起こることもあります。
炭水化物
炭水化物は、消化吸収が可能な「糖質」と消化吸収できない「食物繊維」の2つに分けることができます。乳糖などの糖質は筋肉や脳を働かすエネルギー源となり、食物繊維はコレステロール上昇や肥満、血糖値上昇を防ぐ役割があります。
水分
成人の身体の約60%は水分でできていますが、赤ちゃんの身体は約75%が水分で構成されています。
水分が減ってしまうと脱水症状が起こり、血液循環が正常に進まず、生命を脅かす可能性も出てきます。特に赤ちゃんは汗をかきやすいので、母乳などの水分を積極的に摂取する必要があるのです。
母乳の成分・栄養について知っておきたい5つのこと
生命の維持や成長に欠かせない成分がバランスよく含まれている母乳。母乳栄養について、ぜひとも知っておきたいことを5つまとめました。
母乳は血液からできている
母乳は、乳房の毛細血管に取り込まれた血液から作られています。赤ちゃんはお腹の中にいたときも、お母さんの血液から胎盤を通して栄養を吸収していましたので、生まれる前も生まれた後もお母さんの血液が赤ちゃんの栄養源となっているのです。
母乳は冷凍しても栄養は落ちない
母乳は冷凍しても、大幅に栄養価が落ちることはありません。お母さんが外出するときなどは、母乳を一旦冷凍保存し、解凍させて飲ませても大丈夫です。
ただし、電子レンジなどで急速に解凍すると栄養分が失われやすいため、解凍の仕方には注意が必要です。
- 冷蔵庫に入れてゆっくり解凍する
- 流氷解凍する
以上のような解凍方法をとりましょう。
もちろん赤ちゃんに飲ませるときには、ミルクと同じように人肌程度に温めてから哺乳瓶に入れて、与えてあげましょう。
また、雑菌が増えますので、解凍してから時間が経った母乳や飲み残しは処分してください。
初乳の栄養バランスは通常の母乳と少し異なる
産後10日くらいまでの母乳を「初乳」と呼びます。普段の母乳の色は白っぽいのですが、初乳は黄色がかった白色で、さらさらしているというよりは少し粘り気があるのが特徴です。
初乳は、見た目や感触だけでなく、成分も少し異なります。タンパク質やビタミンA・D・Eの成分が多めに入っているだけでなく、赤ちゃんを細菌やウイルス感染から防ぐIgA抗体も入っています。
母乳の栄養価は1年経っても変わらない
産後10日経つと母乳の色は白色になり、成分も通常の母乳になります。その後、栄養成分は一定となり、半年経っても1年経っても栄養価は変わらず、赤ちゃんに必要な成分を届けます。
ただし、赤ちゃんは日々成長していますので、赤ちゃんにとって必要な栄養成分の構成が変わってきます。
例えば、生後6ヶ月ごろから必要とする鉄分量が増えてきますが、母乳には鉄分が多く含まれていませんので、離乳食などを通して鉄分を補給する必要がでてきます。
母乳も粉ミルクも100ml当たりのカロリーはほぼ同じ
「粉ミルクはカロリーが高いので、腹もちが良い」「粉ミルクは栄養価が高いから、粉ミルクだけで育てると太ってしまう」などと言われることがありますが、実際には粉ミルクも母乳もカロリーは同じです(注1,2)。
母乳と粉ミルクの栄養価
母乳 | 粉ミルク | |
---|---|---|
カロリー | 65.0kcal | 64.3kcal |
タンパク質 | 1.1g | 1.6g |
脂質 | 3.5g | 3.4g |
炭水化物 | 7.2g | 7.0g |
現代の粉ミルクは、母乳栄養に限りなく近く作られていると考えて良いでしょう。
粉ミルクの方が腹もちが良いとか太りやすいと言われるのは、粉ミルクの栄養価が高いからではなく、哺乳瓶の乳首の方が哺乳しやすく、少しの力でたくさんミルクを飲めるからという説もあります。
母乳の質を良くする食べ物と習慣
母乳はお母さんの血液から作られていますので、お母さんの血液の質を良くすると、母乳の質も高くなります。母乳の質や量をアップする食べ物や習慣を紹介します。
脂肪分が多すぎるものはNG
脂肪分や糖質が多すぎるものばかりを食べていると、血液中にも脂肪分や糖質が増え、乳腺が詰まって母乳の出が悪くなることもあります。
また、脂肪分や糖質が多すぎる食事は、お母さんの健康も損ないますので、特定の栄養素に偏らずにバランスよく摂取するようにしましょう。
ビタミン、ミネラル等、血液をさらさらにする食べ物はOK!
血液循環が悪くなると、母乳の出も悪くなってしまいます。血液をさらさらにする効果があるビタミンやミネラルが含まれる食べ物を、バランスよく摂取するようにしましょう。ビタミンやミネラルを積極的に摂り入れると、母乳の栄養バランスもさらによくなることが期待できます。
また、血液の成分のほとんどは水分です。お母さん自身が水分をしっかりと摂らないと、血液がドロドロになりスムーズに流れなくなってしまいます。食事にも水分は含まれていますが、食事以外でも水を1日に1.5リットル~2リットルは飲むように心がけましょう。
サプリメントを利用する
赤ちゃんを育てることはとても楽しいことですが、忙しい作業でもあります。忙しさのあまり栄養バランスの取れた食事を摂ることが疎かになってしまうときは、マルチビタミンなどのサプリメントで栄養補給するようにしましょう。ただし、授乳中の人でも飲めると明記されているものを選んで下さい。
ストレスを溜めるのもNG
ストレスが強くなると、母乳の出が悪くなったり母乳の質が落ちたりすることもあります。
赤ちゃんを育てながら規則正しい生活を維持することは難しいですが、昼寝をするなどして、睡眠時間をしっかりと確保するようにしてください。
適度な運動が大切
運動を定期的に行うことで、血液循環が促進され、母乳の量や質が向上することが期待できます。ベビーカーを押すときに意識的に脚を高く上げるなど、普段の生活に運動習慣を取り入れてきましょう。
赤ちゃんが母乳だけで大きくなるのは母乳が栄養豊富だから
栄養バランスにすぐれ、赤ちゃんに必要な成分がたっぷりと含まれる母乳。生まれたばかりのときだけでなく、赤ちゃんが必要としなくなるまで、しっかりと飲ませていきたいものです。
母乳はお母さんの健康とも密接に関わっていますので、質と量、共にすぐれた母乳を赤ちゃんに与えることができるようお母さん自身も健康に配慮してください。
もちろん、母乳が十分に出ない時などは、粉ミルクを使っても大丈夫。母乳とほぼ変わらない成分が配合されていますので、赤ちゃんの成長の良きパートナーとなるでしょう。
参考文献