低出生体重児のリスクと成長発達
低出生体重児とは?抱えるリスクとNICU退院後の成長発達
低出生体重児とは「出生体重が2500g未満の赤ちゃん」という意味であり、1500g未満は極出生体重児、1000g未満は超出生体重児と定義されます。低出生体重が抱える後遺症リスク、NICU退院後の成長や修正月齢による発達の見方、母乳・ミルクなどの育児の方法、低出生体重児の原因を解説します。
低出生体重児が抱えるリスクとその後の成長発達
「低出生体重児」とは、出生体重が2500グラム未満で生まれてきた赤ちゃんを指す言葉です。以前はWHOによって定義された「未熟児」という言葉が使用されていましたが、小さく生まれても身体の機能には問題のない赤ちゃん、正常体重で産まれても身体の機能が未熟な赤ちゃんなど、多様なケースを説明しづらいため、「低出生体重児」という言葉に言い換えられるようになりました。
日本において低出生体重児で生まれてくる赤ちゃんは年々増加傾向にあります。
- 低出生体重児のパパやママ
- 切迫早産と診断され、予定日より早い出産となりそうな妊婦さん
- 正産期にも関わらず、「赤ちゃんが小さめ」といわれている妊婦さん
以上のような方に向けて、低出生体重児が抱えるリスクやその後の成長などを詳しく解説します。
低出生体重児が抱えるリスク
一般的に、低出生体重児は、正期産で産まれた正出生体重児に比べて、合併症や後遺症のリスクが高いため、NICUなどで管理入院するのが一般的です。
低出生体重児はどのようなリスクを抱えているのか、どのような措置がとられるのか解説します。
低出生体重児の定義
「低出生体重児」とは、出生体重が2500グラム未満で産まれてきた赤ちゃんを指す言葉です。
低出生体重児は、出生体重によってさらに細かく分類されることもあり、1500グラム未満を極低出生体重児、1000グラム未満を超低出生体重児と呼びます。
赤ちゃんの適正体重は2500グラム〜4000グラム未満と考えられており、これらは「正出生体重児」と呼ばれます。低出生体重児とは反対に、赤ちゃんの体重が4000グラム以上ある場合は、「高出生体重児」という分類になり、日本では「巨大児」とも呼ばれます。
出生体重による赤ちゃんの分類
4000グラム以上 | 高出生体重児 |
---|---|
2500グラム以上4000グラム未満 | 正出生体重児 |
2500グラム未満 | 低出生体重児 |
1500グラム未満 | 極低出生体重児 |
1000グラム未満 | 超低出生体重児 |
低出生体重児の生存率
低出生体重児の生存率は以下の通りです(注1)。
500グラム以下 | 50.0% |
---|---|
501~750グラム | 78.9% |
751~1000グラム | 96.6% |
1001~1250グラム | 95,9% |
1251~1500グラム | 96,8% |
出生体重だけでなく在胎週数も重要ですが、妊娠7ヶ月の24週・25週で生存率82,1%、26週・27週で90,9%であり、妊娠8カ月の妊娠28週・29週になると95,6%まで上昇します(注2)。
合併症・後遺症
低出生体重児は身体的に未発達な状態で生まれてくる場合が多く、動脈管開存症、呼吸窮迫症候群、新生児仮死、慢性肺疾患、貧血ほか未熟児網膜症といった合併症を起こしやすいリスクがあります。
「低出生体重児」にとっては、出生体重が2000グラムを超えていたかどうかにより、その後の合併症や後遺症、障害のリスクには大きな違いがあります。
もし、早産のリスクを抱えている場合、在胎日数が1日でも長い方があらゆるリスクを低減させることに繋がります。
2000グラム以上の赤ちゃん/正期産の赤ちゃん
2000グラム以上で生まれた場合や、妊娠37週以降の正産期に入ってから生まれた赤ちゃんは、体の機能がほぼ完成しているため、その後の成長には健康上の問題が起きないことも多いとされています。
1500グラム未満の赤ちゃん
1500グラム未満の極低出生体重児、1000グラム未満の超低出生体重児の場合、合併症や後遺症のリスクも高いため、慎重な経過観察が必要です。
低血糖
低体重で生まれた赤ちゃんは低血糖になりやすいこともわかっています。低血糖とは血糖値が30mグラム/dL未満の状態のことを指します。
特に早産で生まれた場合、ママの体にいる間に十分な栄養を蓄えられていないため、糖分が枯渇してしまい低血糖に陥ってしまうことが多いのです。生まれてから数日間は低血糖が発生しやすく、注意が必要です。
症状
低血糖に陥っても症状がない場合が多いです。なんとなく元気がない、易刺激性、けいれん、無呼吸、徐脈、頻脈、チアノーゼ、低体温、発熱、哺乳不慮、筋緊張低下、意識レベルの低下など、赤ちゃんによって異なった症状が現れます。
治療と後遺症
できるだけ速やかに授乳やミルクを与えます。授乳を行なっても低血糖が改善しないときはグルコースが直接投与されることもあります。
早期に適切な治療が行われれば問題ありませんが、長時間発見されなかったリ、繰り返された場合に神経学的な後遺症が残ることもあるため注意が必要です。
低出生体重児として生まれた赤ちゃんの治療
低出生体重児として生まれた赤ちゃんはすぐに「NICU」と呼ばれる治療室に入院します。
低出生体重児として生まれてきた赤ちゃんを保護するためには病院の施設が整っているかどうかが非常に重要です。生まれてすぐに特別な処置を行い、検査やサポートが必要となるため、保育器に入れて体温管理など集中的な治療を行う新生児集中治療室(NICU)、治療回復室(GCU)などの設備が整った病院での入院が必要となります。
出産してから低出生体重児だとわかった場合、設備の整った病院へ赤ちゃんだけが緊急搬送されることもあります。
入院費用
低出生体重児として生まれてきた赤ちゃんは一定期間入院する必要がありますが、「出生時の体重が2000グラム以下」などの条件を満たしていれば、入院費や治療費を国が一部、または全額負担してくれる「未熟児医療制度」があります。自治体や世帯所得によって負担金額が変わるため、住民票のある市町村で早めの確認を行いましょう。
いつ退院できる?
出生時の体重や赤ちゃんの状態によって退院時期は異なりますが、赤ちゃんの体重が2300グラム〜2500グラム以上になる頃が退院時期の目安になります(注3)。
パパやママは退院日に向けて赤ちゃんを受け入れられるためのお部屋の環境を整え、授乳や沐浴といった育児の練習をしておくといいでしょう。親や地域の保健師さんなど、気軽に相談できる相手を見つけておくことも大切です。
低出生体重児の予後と成長
自分で呼吸や体温調整ができるようになり、体重も順調に増加し始めると赤ちゃんは無事に退院してパパやママの待つ自宅へ帰ることができます。
低出生体重児の赤ちゃんは通常の赤ちゃんに比べて退院後も気をつけてあげることがたくさんあります。発達の仕方は赤ちゃんによって個人差がありますが、出生体重が低いほど成長後の体格も小さくなる傾向があり不安に思うパパやママが多いのも事実です。
母乳とミルクどちらで育てるべき?
低出生体重児の赤ちゃんでも母乳で育てることが推奨されています。十分な母乳量が出ており、赤ちゃんも飲む力がしっかりあれば母乳だけで育てることも可能です。
しかし、低出生体重児の赤ちゃんの場合、吸う力が弱い傾向にあり、ママ側にストレスや不安がある場合に母乳量が少なくなることもあります。そのときは母乳育児に強くこだわることなくミルクを足してあげたり、ミルクで育てるのもいいでしょう。
低出生体重児用のミルクの利用
様々な企業やメーカーも低出生体重児の発育をサポートするためにミルクの開発を行なっています。
赤ちゃんがミルクもあまり飲んでくれない場合、少ない量でも赤ちゃんにとって必要な栄養を補うことができるように開発されているため、先生や助産師さんと相談しながらどのミルクにすべきか選ぶようにしましょう。
赤ちゃんの体重増加が少ないけど大丈夫?
実は低出生体重児の望ましい発育についてまだ明確な結論が出ていません。どの程度体重の増加を進めていくのが適切かはっきりとした指針はありませんが、できるだけ出生体格標準値に近づけるようにした方がいいという考え方が広く認識されています。
しかし、体重を増やす目的だけで母乳からミルクに変えたり、離乳食の量を増やしたりしても脂肪の量が増えてしまい生活習慣病に繋がってしまうことがあります。
急速に発育が増加することはあまりないため、焦らずにゆっくりと先生や助産師たちと相談しながら母乳を中心として育ててあげるといいでしょう。
低出生体重児の発達スピードは「修正月齢」で判断
低出生体重児は、明らかな発達の障害がなくても周りの子どもに比べるとゆっくり成長していくと感じられます。
言葉や知能の発達の遅れが見られることもありますが、年齢が上がるにつれて持病が改善されたり、体格も大きくなったりすると、急速に発達が周りに追いつくケースもあります。
赤ちゃんの成長のひとつの指標には「一人座り」「つかまり立ち」「つたい歩き」などがありますが、低出生体重児は、「修正月齢」により発達段階を診断します。
修正月齢とは?
低出生体重児の場合、実際に生まれた日ではなく、本来の出産予定日から月齢を数える「修正月齢」を目安に発達段階を判断します。例えば予定日より2ヶ月早く産まれた赤ちゃんの場合、生後2ヶ月になった日を「修正月齢0ヶ月」と設定します。
正期産児が生後8ヶ月頃に完成する「一人座り」は、2ヶ月早く産まれた赤ちゃんの場合、月齢10ヶ月(修正月齢8カ月)でできていれば大きな問題はないと考えていいでしょう。修正月齢は、在胎週数によっては、1歳ぐらいで追いつき不要となるケースもあります。
感染症に気をつけて!
低出生体重児として生まれた赤ちゃんは感染症にかかりやすいため退院後は注意が必要です。退院後しばらくは人混みに行くのを避け、来客を最小限に留めるようにしてあげましょう。赤ちゃんに触れる前は手洗い、うがいも忘れずに行いましょう。
感染症を防ぐには体温を保つことが大切
赤ちゃんは体温調整が上手にできないため、部屋の温度に気をつけてあげることが大切です。空調機器を上手に使い、服装や布団で上手に調整してあげるといいでしょう。
夏は26〜28度が目安。寝冷えが冷えて風邪を引いてしまうこともあるため、着替えはこまめに行ってあげてください。冬は20度前後を目安に調整し、湿度を50〜60%程度に保ちましょう。
低出生体重児となる原因
日本では低出生体重児の数は増加傾向にあります。医療の発達により、救える命が増えたことも要因ではありますが、実は他の先進国に比べても、日本は低出生体重児が誕生する割合が高い国です。なぜ、低出生体重児は増えているのでしょうか?
低出生体重児の割合は増加傾向
厚生労働省の出生数と出生体重の推移によると、出生数に対する低出生体重児の割合は1975年(昭和50年)~1985年(昭和60年)にかけては5%程度でした。
しかし、19990年(平成2年)になると6.3%、その後上昇し続け、2007年(平成19年)には9,6%と20年前に比べて4~5%増加しています(注4)。
この数字は、現在もほぼ横ばいで続いており、日本では約10人に1人は低出生体重児として生まれてきているという現状があります。
日本の低出生体重児の割合は、世界水準よりも上
日本における低出生体重児の増加は、医療の発達により、小さくても無事に出産される赤ちゃんの割合が増加したことも原因の1つといわれます。
しかし、経済協力開発機構(OECD)加盟国の低出生体重児の出生率は、6.6%ですし、北欧や韓国の低出生体重児の割合は5%以下というデータもあります。日本は先進国の中でも低出生体重児の割合が非常に高い国といえるのです。
低出生体重児で生まれる原因は?
低出生体重児で生まれてくる原因は赤ちゃんによって様々考えられます。妊娠中のトラブルや先天性の赤ちゃんの異常、双子や三つ子などの場合は、やはり低出生体重になりやすい傾向があります。
早産(妊娠高血圧症などの合併症)
低出生体重児は、やはり早産の赤ちゃんに多く見られます。正期産前の妊娠37週未満に誕生する赤ちゃんは、身体の発育が未熟なことが多く、出生体重も少なくなります。
正産期よりも早く出産する原因としては、胎児の酸素や栄養供給に影響を及ぼす可能性のある妊娠高血圧症候群、出産の前段階で胎盤が剥がれてしまう常位胎盤早期剥離、陣痛がまだ起きていないのに子宮口が開いてしまう子宮頸管無力症、羊水の量に問題が生じる羊水過多症、羊水過少症が代表的です。
胎児の先天異常
母体の環境に問題がなくても、胎児の身体になんらかの先天異常がある場合は、妊娠中のトラブルが起こりやすく、低出生体重児として生まれるリスクも高くなります。
極端な体重管理
低出生体重児は、正期産の赤ちゃんにも存在します。日本では、一般女性の痩せ志向が進み、妊娠中でも「太りたくない」とダイエットを行う方もいます。体重管理は重要ですが、極端な食事制限は、胎児の発育を阻害してしまいます。
妊婦の飲酒・喫煙
妊娠中の喫煙や飲酒は、胎児の肺の発育を妨げ、脳などの神経伝達にも欠陥を起こすリスクを上昇させます。赤ちゃんを守るためにも妊娠中の喫煙・飲酒は絶対に控えましょう。
多胎妊娠
双子や三つ子などの多胎妊娠では、胎児の出生体重は単胎体妊娠に比べて低くなる傾向にあります。多胎妊娠は、単体妊娠に比べて、早産のリスクも高く、慎重な経過観察が必要です。
日本での低出生体重児の増加は、不妊治療による多胎妊娠の増加も一因ではという説もありますが、単体妊娠のみを見ても、日本の低出生体重児の割合は増加傾向です。
母親の年齢と低出生体重児の関係
低出生体重児を産んだ母親の年齢を比較してみると、10代と40歳以上に増加することがわかっています(注5)。
若年妊娠や高齢出産では低出生体重児を出産する可能性が高いことを自覚して、生活習慣の改善などをより一層行う必要があると言えるでしょう。
母親の年齢と低出生体重児の割合
〜14歳:17.6%
15〜19歳:10.7%
20〜24歳:9.0%
25〜29歳:8.9%
30〜34歳:9.4%
35〜39歳:10.7%
40〜44歳:13.1%
45歳〜:19.5%
低出生体重児だった赤ちゃんでも、いずれ成長は追いつく!
赤ちゃんが低出生体重児として生まれると、パパやママは妊娠期間中の自分を責めたり、悲観的になったりすることも多いものです。母である自分は退院しても、NICUに母乳を持って通い続ける方も多く、退院の目処が立たないと精神的にも肉体的にも疲労を感じてしまいます。
しかし、短い期間で赤ちゃんの成長を見るのではなく、赤ちゃんと寄り添いながらひとつひとつの成長を感じながら子育てをする気持ちが大切です。周りの子どもと比べて焦ることもあるかもしれませんが、体重や身長、身体の機能はいずれ追いついていくものです。
退院後は地域の保健師さんなどを積極的に頼りましょう。困ったことや不安なことがあれば、悩みを一人で抱えるのではなく気軽に相談しながらゆっくりと赤ちゃんの成長を見守ってください。
参考文献