妊婦にチーズはNGなの?/リステリア菌が胎児へ及ぼす影響
妊婦さんは食べ物の嗜好が妊娠前と変わってしまうなど、食べ物に関して戸惑うことが多くなってきます。また、妊娠中は、「これ食べても大丈夫かな?」と心配になる食べ物も増えていきます。妊娠中に気をつけた方が良い食べ物の中のひとつ「チーズ」について詳しくご説明していきます。
チーズが妊娠中によくないと言われる要因のひとつであるリステリア菌や、妊婦が注意したいチーズの種類・妊婦でも食べても良いチーズの種類など、妊娠中のチーズについての疑問を解決していきます。妊娠中は、何かにつけて神経質になるものです。食べ物についても、一つ一つ不安が解消できると、妊娠中のストレスも減るでしょう。
チーズの分類
リステリア菌感染のことを知ってしまうと、妊婦さんの中には怖くてチーズが食べられなくなってしまう方もいるかもしれません。ただ、すべてのチーズのリステリア菌感染の危険があるということでは、ありません。妊婦さんが安心してチーズを食べることができるように、まずチーズの分類について勉強していきましょう。
ナチュラルチーズ
ナチュラルチーズとは、牛・羊・ヤギの乳を固めて発行・熟成させたものです。原料の乳に含まれている乳酸菌もそのまま生きています。ナチュラルチーズには、様々な種類のものがあります。どのような原料の乳を使うか・製造方法・乳酸菌やカビの種類などにより、できあがるチーズは全然違います。世界中には1,000種類以上ものナチュラルチーズがあります。
ナチュラルチーズは、発酵の進み具合により味が変化していきます。ご自分の好きな発酵具合のナチュラルチーズを選ぶのも、チーズ愛好家には楽しみの一つです。日本では、チーズが毎日食卓に並ぶというご家庭は少ないですが、欧米などでは自宅の冷蔵庫に何種類ものチーズを揃えているというご家庭も多いです。
プロセスチーズ
プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱して製造しているチーズです。細かくしたナチュラルチーズ(1種類または数種類)を加熱して溶かし、乳化剤をくわえるなどして、再び形を整えることにより、プロセスチーズができあがります。
ナチュラルチーズは加熱されることで発酵が止まるため、保存していても風味・味が変わらないのが特徴です。日本人には、プロセスチーズの方が馴染みあるかもしれません。食パンに乗せて食べると美味しいスライスチーズは、プロセスチーズになります。
妊婦が注意したいチーズの種類
一言にチーズと言っても、製造方法が違うことがわかりました。では、リステリア菌への感染を予防するために妊婦が気をつけた方がよいチーズはどのようなものなのでしょうか。妊婦さんがチーズを購入するときは、商品名や原材料の欄をよく確認して、どのようなチーズなのかをチェックしてください。
日本のナチュラルチーズ
妊婦さんが気をつけたいチーズは、「ナチュラルチーズ」と分類されているものです。ナチュラルチーズには、色々な種類のものがあります。日本で見かける主なナチュラルチーズをご紹介しておきます。
主なナチュラルチーズ
- モッツァレラチーズ
- ブルーチーズ
- ゴルゴンゾーラチーズ
- カマンベールチーズ
- チェダーチーズ
- パルメザンチーズ
- フロマージュブランチーズ
- リコッタチーズ
チーズ作りには乳が欠かせません。日本のチーズの約90%が、酪農が盛んな北海道十勝地方で生産されています。また、日本国内でナチュラルチーズを製造する場合には、製造過程で加熱することが義務付けられているので、リステリア菌感染のリスクは基本的に無いと言えます。
外国産チーズ
日本国内のチーズの消費量は、年々増加しており、現在はチーズの消費量の統計が開始された昭和48年の約5倍となっています。しかし、現在の国内のチーズ消費量の約80%を輸入チーズが占めています。日本国内でナチュラルチーズを食べる場合、外国産のものが殆どと思っておいて良いでしょう。
ナチュラルチーズをそのまま食べる習慣がない方でも、ナチュラルチーズを原料としたレアチーズケーキやティラミスなどのスイーツが好きという方もいるでしょう。国内で生産されたスイーツでも原料のナチュラルチーズは外国産という場合が多いですので、気をつけてください。
日本国内では、ナチュラルチーズを食べてのリステリア菌感染の報告例はまだ出ていませんが、ナチュラルチーズが多く食べられている欧米では、ナチュラルチーズによる食中毒の感染例が報告されています。
妊婦が食べてもよいチーズの種類
次に妊婦さんが安心して食べることができるチーズについてご紹介していきます。妊婦さんが、チーズを選ぶ時のポイントは、プロセスチーズと加熱してあるかという2点になります。
プロセスチーズ
プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱処理して製造されているので、安心して食べることが出来ます。チーズは、牛乳を原料としているため牛乳の栄養素が凝縮された、非常に栄養価の高い食品です。また、手頃に食べることができますので、食べ過ぎなければ妊婦さんの栄養食品として有効になります。私たちがスーパーなので見かける「スライスチーズ」・「キャンディーチーズ」などは、加熱処理されたプロセスチーズになります。
加熱したナチュラルチーズ
ナチュラルチーズであっても加熱されたものであれば、安心して食べることが出来ます。リステリア菌を死滅させるのは、中心部分を75度で約1分間加熱させることが必要となります。チーズを使用したピザ・グラタンなどを作る時には、しっかりとチーズまで加熱させるようにしましょう。ベイクドチーズケーキも加熱はされていますが、ものによっては加熱時間が短い場合がありますので、注意が必要です。ベイクドチーズケーキを食べたい場合は、自分で作ってよく加熱させると安心です。
妊婦がチーズを食べる時は「リステリア菌」に注意
妊娠中にチーズを食べない方が良いと言われる原因は、「リステリア菌」です。チーズは、リステリア菌に感染する恐れのある食べ物の一つです。まず、リステリア菌について、詳しくご説明していきます。
リステリア菌とは?
リステリア菌の正式名称は、「リステリア・モノサイトゲネス」と言い、自然界に広く存在している細菌です。リステリア菌は食中毒を起こすことがあります。リステリア菌による食中毒を予防するためには、食品をよく加熱する必要があります。ただ、リステリア菌は、4度以下の低温環境や12%の食塩濃度環境でも増殖する手強い細菌ですので、食品を冷蔵庫に入れたり、塩漬けしたりしているからと言って安心してはいけません。
免疫力が低下する妊婦はリステリア菌に注意!
リステリア菌による食中毒は、健康な大人の場合、よほど多くのリステリア菌を摂取しないと発症しないため、日本国内においては、今のところリステリア菌による食中毒の報告例はありません。ただ、リステリアに感染した人は、推定で年間200人ほどいます。
健康な大人の場合、リステリアに感染しても重症化する可能性は低いです。ただ、妊娠中は免疫力が低下しているため、リステリア菌に感染すると重症化する恐れがあるため、気をつけるよう厚生労働省からも注意喚起されています。
妊婦さんがリステリア菌に感染するリスクは、健康な大人の人の約20倍とも言われています。妊婦さんが、リステリア菌に感染する可能性が高い食べ物を避けるのが賢明と言えます。
リステリア菌を含むその他の食品
チーズ以外にもリステリア菌を含む食品はあります。妊娠中は、チーズだけでなくリステリア菌感染の恐れがある以下の食べ物に注意してください。
- 生ハム
- 魚卵(明太子・すじこ)
- スモークサーモン
- 肉や魚のパテ
家庭でできるリステリア菌感染対策
リステリア菌による感染を予防するために、家庭でチーズなどリステリア菌感染の恐れがある食品を食べる時には、以下の点に注意しましょう。
リステリア菌感染対策
- 賞味期限を過ぎたものは食べないようにする
- 賞味期限内であっても開封後は早めに食べきる
- 冷蔵庫に保存しているからと油断しない
- 冷凍可能な食品はできるだけ冷凍庫に保存する
- 食品の中心部分までよく加熱調理して食べる
- 生肉や生魚に触れた時には、すぐに手をよく洗う
- まな板・包丁は使用したらすぐに洗う
家庭の冷蔵庫は頻繁に開け閉めします。開閉回数が多いと冷蔵庫内の温度は、上昇してしまいますので、冷蔵庫に入れているからと安心しすぎないようにしてください。冷蔵庫に入れる時は、食中毒の可能性が高いものや生魚・生肉などを、開閉しても温度が上がりにくい冷蔵庫の奥の方に保存するようにしましょう。
リステリア菌に感染した時の症状
リステリア菌による食中毒に感染した場合の症状を頭に入れておきましょう。ただ、風邪や他の感染症などと症状と見分けがつきにくい症状も多いので、感染初期は見逃してしまいがちです。妊娠中は、ちょっとした風邪でも油断していると重症化してしまうことがあります。自分の体調に普段と違う点を感じたら、早めに専門家に相談してください。
リステリア菌感染による食中毒の主な症状
- 悪寒
- 発熱
- 下痢や嘔吐
- 頭痛
- 筋肉痛
- 敗血症
- 髄膜炎
妊婦がリステリア菌に感染した時の胎児への影響
リステリア菌に感染した時に妊婦さんが一番心配になるのが、お腹の赤ちゃんへの影響でしょう。妊娠中は、妊婦さんの食べたものや体調の変化が、赤ちゃんに影響を及ぼすことがあります。あまり神経質になる必要はありませんが、できることは気をつけていきましょう。
胎盤を通じて胎児へ感染
妊婦さんがリステリア菌に感染した場合、胎盤を通じて胎児にも感染してしまいます。妊婦さんの症状は軽くても、赤ちゃんには重篤な影響があることがあります。妊婦さんは、本人の症状が軽いからと言って、安心はできません。
新生児の髄膜炎発症
妊婦さんがリステリア菌に感染した場合、赤ちゃんを出産する時に、膣内でリステリア菌に感染してしまうことがあります。リステリア感染症の新生児として産まれると、場合によっては、髄膜炎を発症してしまうことがあります。新生児の髄膜炎発症は、重症化する可能性が高いですので、注意が必要です。
新生児の脳炎発症
妊婦のリステリア菌の感染により新生児に二次感染した場合、脳炎を発症することもあります。脳炎も、重症化すると危険ですので、早めの処置が大切になります。
世界でのリステリア菌感染の報告例
日本では、リステリア菌感染で重篤な症状に陥ったという話は聞かれませんが、海外ではリステリア菌感染での症例が報告されています。アメリカでは、年間約2,500人がリステリア菌に感染して重篤な症状が起こっています。過去にリステリア菌の感染源になったとされたチーズやその他の主な食品をご紹介していきます。
リステリア菌の感染源とみられる食品
<チーズ類>
- メキシカンスタイルチーズ
- ブリードモーチーズ
- ヴァシュランモンドールチーズ
- ポンレヴェックチーズ
- 青カビチーズ
<肉類>
- サラミソーセージ
- コンビーフ
- 七面鳥
- ポークパテ
- ミートパテ
<魚類>
- スモークした魚
- スモークムール貝
- エビ
- カニカマ
<野菜類>
- コールスローサラダ
- ポテトサラダ
- サンドイッチ
妊婦がナチュラルチーズを食べてしまった時の対処法
妊婦さんの中には、チーズの危険性を知らずにナチュラルチーズを食べてしまったという方や、外食していてついうっかりとナチュラルチーズを口にしてしまったという方もいるでしょう。ナチュラルチーズの場合は、その殆どが外国産になりますので、加熱処理していない可能性が高いです。リステリア菌感染のリスクはゼロではありませんので、対処する必要があります。
ナチュラルチーズを食べてしまった場合には、自分の体調に変わったところが見られなくても、念のため妊婦健診の時にでも、担当の産婦人科医に相談してください。
妊婦はチーズを選んで美味しく食べよう
チーズ好きな妊婦さんは、妊娠中も食べることができるチーズがあると判って少し安心されたのではないでしょうか。妊娠中であっても、加熱したチーズやプロセスチーズであれば、リステリア菌への感染を心配せずに食べることができます。妊婦さんがストレスを溜めてしまうとお腹の赤ちゃんにも悪影響を与えかねません。チーズ好きな妊婦さんは、安心して食べることができるチーズを選んで美味しく食べてください。