授乳中の風邪薬の影響

授乳中の風邪薬は赤ちゃんに影響する?服用OKな薬の種類

授乳中は風邪薬を飲んでも大丈夫なのか、薬の成分が母乳を通して赤ちゃんの体に移行する過程とその影響度を説明します。国立成育医療研究センターの情報をもとに、授乳中でも使用できる風邪薬(頭痛薬や鎮静剤)の成分や商品名についても解説。予防接種や漢方は安全なのかといった疑問にも答えます。

授乳中の風邪薬は赤ちゃんに影響する?服用OKな薬の種類

授乳中は風邪薬を飲めない?薬の成分は赤ちゃんにどう影響する?

妊娠中、多くのお母さんたちは身体に摂り入れるものに注意を払ってきました。摂り入れた成分が血液を通り、お腹の中にいる赤ちゃんの発育に影響を与える恐れがあったからです。

そして授乳中も、薬に関しては「母乳に影響を与えないのだろうか」「赤ちゃんに良くない成分が入っていないだろうか」と不安がついてまわります。風邪をひいても薬を服用せず、のどの痛みや頭痛にじっと耐えている方もいらっしゃるでしょう。

母体の血液から作られる母乳

母乳は、お母さんの血液から作られます。お母さんが飲む薬の成分も血液に乗って母乳を作る乳腺に届きますので、お母さんが薬を飲むなら多かれ少なかれ母乳に入ることになります。

すべての医薬成分が母乳に入るわけではない

薬の瓶から手のひらに錠剤を出す

ただし、すべての医薬成分が、お母さんの血液を通じて母乳に入り込むわけではありません。また、医薬成分が母乳に入り込んだとしても、血液から母乳が作られる過程で、赤ちゃんに何の影響も与えないほど医薬成分が薄くなることが分かっています。

一部の医薬成分は、血液から母乳が作られる過程で成分濃度が濃くなります。ですが、濃い医薬成分が入った母乳を赤ちゃんが飲み、赤ちゃんの血液に吸収され、赤ちゃんの身体に作用するまでには、いくつもの過程を経なくてはいけません。

そのため、赤ちゃんが医薬成分の入った母乳を飲んだとしても、必ずしも身体に影響を与えるとは言えないのです。

授乳中に避けておくべき成分

摂取する量や代謝能力の違いによっても医薬成分の影響力は変わってきますが、一般的に、授乳中は避けておくべきだとされている成分には次の4つがあります。

アミオダロン

アミオダロン

不整脈治療に使用される医薬成分「アミオダロン」。他の抗不整脈薬が効かない場合でも効果を発揮することもあるほど強い医薬品ですので、新たな不整脈を生みだしたり、肺線維症などの重篤な症状を招いたりすることもあります。

アンカロンという商品名で処方されますが、アミオダロン塩酸塩錠やアミオダロン塩酸塩速崩錠などのジェネリック医薬品もあります。不整脈の治療をしているお母さんは、該当する医薬品を服用していないか確認して下さい。

コカイン

麻薬として知られる「コカイン」。塩酸塩の形で医療用として使用されることがあります。表面麻酔として用いられ、溶液や点眼薬、軟膏の形態で使われます。

依存症状を起こすこともありますので、できるだけ薄い濃度で使用することや年齢・体質・症状などのさまざまな要素を考慮してから処方すること等、制約が多いことも特徴です。複数の製薬会社からコカイン塩酸塩として販売されています。

ヨウ化ナトリウム(123I)

「ヨウ化ナトリウム(123I)」は、甲状腺疾患の診断や甲状腺機能の検査に使用される医薬品です。高齢者への慎重投与だけでなく、妊娠している可能性がある人や妊婦、授乳婦にも、原則的に投与しないことが定められています。尚、「ヨードカプセル-123」という名前の商品名で処方されます。

ヨウ化ナトリウム(131I)

パセドウ(パセドー)病等を含む甲状腺機能亢進症や甲状腺がん、甲状腺がんの転移巣の治療に用いられる医療用医薬品「ヨウ化ナトリウム(131I)」。シンチグラムを用いて甲状腺がんを発見する際にも処方されることがあります。商品名は「ヨウ化ナトリウムカプセル」で、中に含まれるヨウ化ナトリウム液の量によって1号、3号、5号、30号、50号があります。

授乳中でも風邪薬は服用できる?

国立成育医療研究センターで授乳中に好ましくないとされている医薬品および成分は、先程紹介した「アミオダロン」、「コカイン」、「ヨウ化ナトリウム(123I)」、「ヨウ化ナトリウム(131I)」の4つです。

いずれの成分も風邪薬には含まれない成分ですので、授乳中も風邪薬を飲んだからと言って、母乳に強い影響を与えてしまうことはありません。

安全に使用できると思われる薬

国立成育医療研究センターの発表による「授乳中に安全に使用できると思われる薬」(注1)から、代表的な風邪薬の成分と代表的な市販薬名を抜粋して紹介します。

薬の分析をする医師

アセトアミノフェン/カロナール

解熱効果、熱による身体や喉の痛みを抑える効果が期待できる医薬成分「アセトアミノフェン」。カロナールなどの風邪薬に含まれています。

イブプロフェン/ブルフェン

解熱効果と鎮痛効果が期待できる医薬成分「イブプロフェン」。ブルフェンなどの風邪薬に含まれています。

エレトリプタン/レルパックス

風邪によって頭痛を感じている人は、風邪薬ではなく頭痛薬を服用することもあります。偏頭痛の治療効果が期待できる「エレトリプタン」は、頭痛薬のレルパックス等に含まれています。

ジクロフェナク/ポルタレン

解熱効果と鎮痛効果が期待できる成分「ジクロフェナク」。ボルタレンやナボール、ジクロフェナクナトリウム錠、チカタレン、サビスミン等の商品名で風邪薬として処方・販売されています。

ナプロキセン/ナイキサン

炎症を鎮めて痛みや腫れを抑える効果がある成分「ナプロキセン」。解熱効果も期待できます。ナイキサン等の商品名で処方されます。

各メーカー(製薬会社)が販売している市販薬に関しては、薬の添付文書を確認してください。ホームページからも閲覧できます。

授乳中の服用が認められていない製品の服用はNGです。また、授乳中の服用は可能でも、長期連用は避けるように記されていることもあります。

個別の対応は「授乳と薬のご相談」や「妊娠と薬外来」へ

医師の診断を受ける女性

授乳中は医師の診察の受けたうえで、薬剤師が処方する薬を服用するのが1番安全です。ですが、緊急時など薬局やドラッグストアで市販薬を購入する場合は、薬剤師や登録販売者に商品選びを手伝ってもらいましょう。

いくつかの薬を同時に服用することで、思わぬ副作用が生まれることもありますので、複数の薬を内服・外用するときは自己判断は禁物です。かならず薬剤師や医師に相談しましょう。

国立成育医療研究センターの授乳中の医薬品専用窓口

国立成育医療研究センターでは、授乳中の医薬品に関する疑問に対して個別の対応も実施しています。授乳中のお母さんで薬に対して疑問がある人は、国立成育医療研究センターの「授乳とお薬のご相談」(03-3416-0510)に連絡して見ましょう。祝祭日を除く月曜日から金曜日の10:00~12:00に電話相談を受け付けています。

尚、スムーズに質問できるように、母子手帳やお母さん自身のお薬手帳を用意してから電話をかけるようにしてください。

妊娠と薬情報センター

「電話ではなく直接会って相談したい」というお母さんは、47都道府県に1ヶ所ずつ設けられている「妊娠と薬情報センター」で相談することができます。いずれのセンターも曜日と時間が限定されており、予約制となっていますので、かならず電話をかけてから出かけるようにしましょう。尚、相談料は自費負担となります。

かかりつけの医師に相談してみよう

国立成育医療研究センターに電話をかけてもなかなかつながらない人、また、妊娠と薬情報センターは家からアクセスが不便という人は、かかりつけの医師に相談してみることが勧められます。

今、処方してもらっている医薬品(他の医療機関で処方してもらっている医薬品やドラッグストア等で購入した市販薬等、服用しているすべての医薬品)を持っていき、母乳にどのような影響を与えるのか尋ねてみましょう。

漢方は大丈夫?

漢方薬の材料

「漢方は化学薬品ではないから医薬品には入らない」と、自己判断をしてしまうお母さんがいます。ですが、一部の漢方は「医療用漢方製剤」と呼ばれる医薬品ですし、身体に与える効果・効能も科学的に証明されています。場合によっては、化学薬品よりも強い作用や効果を示すこともあり、決して「漢方=穏やかな効き目」ではありません。

漢方だからと安心して服用するのではなく、服用する前には授乳中でも問題ないのかを確認し、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

他の病気のために複数の医薬品を飲んでいる人は、一度、漢方を含めたすべての医薬品をかかりつけの医師に見せ、同時に服用可能なのか尋ねる方が良いでしょう。

授乳中は予防接種等は可能?

風邪をひきやすい女性は、毎年、インフルエンザなどの流行性疾患の予防接種を受けているのではないでしょうか。授乳中でも予防接種を受けられるのかについて探っていきましょう。

授乳中の予防接種は特に問題はない

インフルエンザワクチンはウイルスを不活性化した「不活性ワクチン」ですので、お母さんの身体の中でインフルエンザウイルスが増殖することや増殖したウイルスが血液として乳腺におくられるということはありません。

ですから、授乳中であっても、インフルエンザワクチン(予防接種)を受けることは可能です。ただし、他の病気にかかっている人や服用している医薬品がある人は、インフルエンザワクチンを受けるときに申告し、医師に摂取可能かどうかを尋ねるようにしましょう。

生ワクチンも特に心配する必要はなし

ワクチンと注射器

風疹ワクチンなどの生ワクチンは、ワクチンウイルスがお母さんの血液を通して母乳まで運ばれることが報告されています。このため、生ワクチンを接種したお母さんのおっぱいを飲んでいる赤ちゃんは、風疹抗体が一時的に陽性になることがあります。ですが、赤ちゃんに風疹の症状が出ることはなく、しばらくすると風疹抗体も陰性になりますので、特に心配する必要はありません。

とはいえ、生ワクチンは激しい反応を与えることもあります。風疹が流行している地域で暮らしている場合など、授乳中に風疹ワクチンを摂取することが必要になったときは、医師に授乳中であることを告げ、適切な判断を仰ぐようにしてください。

周囲の人も積極的に予防接種を受けよう

インフルエンザワクチンを接種したお母さんの母乳から、赤ちゃんがインフルエンザに罹患することはありません。ですが、お母さんがインフルエンザに罹患して、鼻水や咳などが赤ちゃんにかかるなら、赤ちゃんが高い確率でインフルエンザに罹患してしまいます。

インフルエンザが流行している時期は、授乳中のお母さんも積極的にインフルエンザワクチンの予防接種を受ける方が良いでしょう。もちろん、赤ちゃんにインフルエンザをうつす可能性があるのはお母さんだけではありません。お母さん以外の家族も、インフルエンザの流行時期になる前に早めに予防接種をするようにしましょう。

また、インフルエンザが流行しているときは、あまり人が多いところに連れて行かない、マスクをかける、清潔な手で赤ちゃんに触れるなど、生活に注意することも大切です。赤ちゃんは大人と比べると抵抗力が弱いので、高熱を発したり、症状が重くなる可能性もあります。

もし授乳中にインフルエンザに感染したら?

マスクを押さえながら咳き込む女性

お母さんがインフルエンザに罹患してしまうと、解熱効果や鎮痛効果のある医薬品を服用することになり、母乳を通して成分が少なからず赤ちゃんに移行する可能性があります。

例えば、インフルエンザに罹患すると、即効性のある抗インフルエンザ薬「タミフル」が処方されることがありますが、タミフルは比較的新しい薬ですので、授乳中や妊娠中の服用による安全性がはっきりと立証されていません。そのため、授乳中は服用しない方が良いと判断する医師も多くいます。タミフル以外にも、抗インフルエンザ薬は、授乳中の安全性が確立されていない種類のものが多くあります。

普段から哺乳瓶に慣れている子なら、服薬中は粉ミルクへの切り替えが可能ですが、完全母乳で育てている赤ちゃんは、哺乳瓶を嫌がるケースもあります。「インフルエンザで身体が辛いのに薬が飲めない!」といった状況を回避するためにも、予防接種を受けてインフルエンザ自体を回避するのが1番得策です。

母乳を諦める前にできることは多い

母乳には、赤ちゃんの感染症の予防や免疫発達を促すなど、優れた効果がたくさんあります。一度、授乳を中断すると、母乳の出が悪くなってしまうケースもありますし、突然の断乳は乳腺炎なども心配です。

授乳中の薬の服用に関しては、自己判断するのではなく、専門外来や薬剤師、医師に相談しましょう。
もし授乳を一時的に中断しなくてはいけない事態になっても、搾乳でおっぱいを絞るなどすれば、母乳育児を継続する方法はあります。

産後は育児で忙しく、赤ちゃんだけでなく、お母さんの体調も気がかりです。感染症の予防には細心の注意を払い、できるだけ休息をとれるようにしていきましょう。