カンガルーケアの効果とリスク

カンガルーケアとは?出産前に知っておくべき効果とリスク

カンガルーケアとは、出生直後の新生児を母親が抱っこし、初乳を与える産後のケア方法です。母子の愛着形成、母乳が出やすいなどのメリットがありますが、事故等の危険性も存在します。カンガルーケアはしない方がいいのか効果とリスクを説明し、具体的なやり方や帝王切開では可能なのか解説します。

カンガルーケアとは?出産前に知っておくべき効果とリスク

カンガルーケアはする?しない?効果とリスクを知っておこう

生まれたばかりの赤ちゃんをそっと胸に抱くカンガルーケアに、母親として憧れを抱く人も多いでしょう。しかし、近年ではリスクも報告されており、「カンガルーケアは危険そうだから、やりたくない」という方も増えてきました。

カンガルーケアはしてもいい?しない方がいい?
出産方法の希望を産院に伝えるバースプランでも、カンガルーケアに関しては記載しておいた方がよい項目の1つです。迷っているママやご家族に向けて、カンガルーケアの効果とリスクを解説します。

カンガルーケアとは?日本でのカンガルーケアの意味と目的

生まれたばかりの赤ちゃんを胸の上で抱いて頭にキスしてるママさん

カンガルーケアは、生まれたばかりの赤ちゃんを母親の胸の間で抱き、初回授乳まで行うケア方法として知られています。

しかし、カンガルーケアはもともとは低出生体重児向けのケア方法であり、カンガルーケアを行うのは産後すぐとは限らなかったという点をご存知でしょうか?

まずは、カンガルーケアが生まれたきっかけ、カンガルーケアの歴史を説明します。

カンガルーケアの歴史

カンガルーケアは、低出生体重児のためのケア方法だった!

カンガルーケアは1979年に南米のコロンビア・首都ボゴタの病院で始まりました。当時のコロンビアでは新生児医療の設備が十分ではなく、保育器も不足しており、1つの保育器に2人以上の赤ちゃんを寝かせた結果、院内感染も起こすケースもありました。

そのため、出生体重児が1500g未満の極低出生体重児は酸素投与が不要となった状態で、保育器から出し、オムツのみをつけて母親の胸の間に抱かせることで、保温と授乳を行うケア方法へ移行しました。その姿がカンガルーの親子に似ていることから、カンガルーケアという呼び名が付きます。

代替え案だったカンガルーケアに予想以上の効果

不足している保育器の代替え案だったカンガルーケアですが、調査の結果、新生児の低体重・栄養不良、感染症リスクが改善に向かい、更に母親の養育放棄が減少したことが判明します。こうしてカンガルーケアは、発展途上国を中心に、低出生体重児のケア方法として多国で実践されるようになります。

イギリスのNICUで実践し、愛着形成にも役立つ

後にカンガルーケアは、医療先進国であったロンドンのNICU(新生児特定集中治療室)でも実践されます。低出生体重児の出産では母親は早期の母子分離により大きなストレスを抱えていますが、カンガルーケアはこうしたストレスを軽減させ、母親と赤ちゃんの愛着形成に効果があることもわかりました。

その結果、医療先進国、発展途上国を問わず、カンガルーケアは世界中へ広まっていったのです。

日本でのカンガルーケアの意味

90年代半ば~低出生体重児のケア方法として実践

NICUに入ってる赤ちゃんを見てる出産直後の母親

日本でカンガルーケアが取り入れられたのは、1990年代半ば~後半にかけてです。やはり当初は、低出生体重児ゆえに、産後まもなくNICUに入ることになった家族の親子関係を改善するという目的での実践でした。

2000年以降になると、正常出産にも範囲が拡大

本来は、低出生体重児の保護を目的に行われていたカンガルーケアですが、2000年以降はその対象が正期産の健康な母子にも拡大します。背景としては、1996年にWHOが「正常出産のガイドライン」を発表し、愛着形成のためのカンガルーケアを推奨したことが挙げられます。

現代の日本における「カンガルーケア」の目的

医療先進国である日本では、カンガルーケアは保育器の代わりとなるケア方法としてではなく、低出生体重児、正期産児問わず、母子の愛着形成を図ることを目的に行われています。

この記事では、正産期向けのカンガルーケアを中心に説明していきますが、カンガルーケアというのが本来は低体重児向けのケア方法であり、正期産児には絶対に必要というものではありません。

カンガルーケアの効果

カンガルーケアのメリットは、赤ちゃんと母親の双方にあります。母親は情緒が安定し、赤ちゃんと早い段階で触れ合うことによってホルモンの分泌が促されて母乳が出やすくなります。赤ちゃんは体調も安定しやすく、安心感を覚えることがわかっています。

母親が赤ちゃんへの愛情を実感しやすい

カンガルーケアを行った母親は、分娩後にすぐ赤ちゃんと密着できることで、赤ちゃんへの愛情を実感し、母親としての自覚が得られるというメリットがあります。

カンガルーケアを行った母親と、行っていない母親に、出産後1年後にアンケートを行ったところ、「出産後すぐの赤ちゃんの様子を記憶している」と答えたのは、カンガルーケアを行った母親は約86%、行っていない母親は54.5%という報告があります(注1)。

また、「母親になったと実感した時期」についても、カンガルーケアをした母親は「出産直後」という回答が一番多いのに対し、カンガルーケアを行っていない母親は「退院後」が多く(注2)、カンガルーケアが母子の関係に良い影響を与えていることが伺えます。

母乳育児がスムーズに行いやすい

ユニセフとWHOによる共同声明である「母乳育児成功のための10か条」には、分娩後30分以内に赤ちゃんが母乳を飲ませられようにする、母子同室で赤ちゃんと母親が24時間一緒にいられるようにするといった内容が記載されています(注3)。

赤ちゃんがおっぱいを飲むと、母親の体内から愛情ホルモン呼ばれるオキシトシンが盛んに分泌され、母乳が出やすくなることは科学的に証明されています。

カンガルーケアは、授乳面だけに限った取り組みではありませんが、産後すぐに赤ちゃんと母親が密着することでオキシトシンを効果的に分泌できれば、母乳育児がスムーズに進む可能性は高まるでしょう。

赤ちゃんも安心感を得られる

母親の肌の温もりと愛情に包まれた赤ちゃんは、安心感を得られます。オキシトシンは、乳房の表面温度を上昇させ、母親の肌に触れている赤ちゃんに温もりを与えます。

カンガルーケアにより、赤ちゃんの体温や血糖値が安定し、呼吸循環の安定などにも効果が期待できます。

カンガルーケアのリスク

カンガルーケアは母親や赤ちゃんにとって様々な効果がありますが、その反面リスクもゼロではありません。カンガルーケアとの因果関係は明らかではありませんが、カンガルーケアの最中に赤ちゃんが重篤な状態に陥ってしまった事故もあります。

カンガルーケアのリスクや問題点

カンガルーケアで赤ちゃんの顔を覗き込んでる母親

「カンガルーケアのリスクを事前に知っていればその選択はしなかった」という方も実際に存在しています。カンガルーケアをしなかったからといって、赤ちゃんとの絆が築けない、母乳育児に弊害が出るという訳では決してありません。

呼吸障害

カンガルーケアの最中に、赤ちゃんの呼吸が弱くなったり、時には呼吸停止してしまうという事例が報告されています。

医療裁判も行われていますが、カンガルーケアを行わない場合でも、出産直後の新生児の容体が急変するケースはあります。そのため、経過観察を怠った産院に責任を認めることはあっても、カンガルーケアとの因果関係は依然として不明のままです。

低体温症

カンガルーケアはもともとコロンビアで始まったと紹介しましたが、日本とコロンビアでは環境が異なります。日本の分娩室は室温が25度前後に保たれていることが多く、生まれたばかりの赤ちゃんにとっては寒いという指摘もあります。そのため自律神経が安定していない出生直後の赤ちゃんは、低体温状態に陥りやすいリスクも報告されています。

転落

カンガルーケアを行う最中に赤ちゃんを人の手によって移動させるため、転落の危険がないわけではありません。また、出産直後の母親は、疲労のため判断力が鈍り、日常的な動作もいつも通りにはこなせません。転落を防止するためには、看護師や母親以外の家族などの付き添いが必要です。

発達障害の可能性?

発達障害の原因はカンガルーケアによる低体温症が原因のひとつではないかという指摘が存在します。しかし、発達障害は生まれつき脳の機能の一部が原因だとされているため、カンガルーケアにと発達障害の因果関係はないという説が濃厚です。

カンガルーケアの事故や危険を防ぐには?

カンガルーケアを行う間は、呼吸状態を観察するモニターを赤ちゃんに装着させたり、赤ちゃんや母親の状態を医療スタッフが常に確認する体制をとり、安全面への十分な配慮が必要です。

カンガルーケアを行うにあたり、医師がカンガルーケアに対する事故や危険性についてしっかりと対策を講じているか、事前に確認しておきましょう。カンガルーケアのリスクをしっかりと説明しない産院でカンガルーケアを行うことはおすすめできません。

【バースプラン】カンガルーケアをするかどうかはいつ決める?

バースプランとは出産の希望を紙に書いて産院に提出するものですが、その中にカンガルーケアの希望を書く項目が含まれていることが多いです。カンガルーケアの効果やリスクを把握した上で、カンガルーケアを行うかどうか夫婦で判断するようにしましょう。

カンガルーケアを希望しない場合は、希望しない旨をはっきり伝えておきましょう。まれに事前に言わないと当然のようにカンガルーケアを行う産院がありますが、本来カンガルーケアを行うかどうかは母親自身に選択権が与えられるべきことです。

出産が楽しみになるバースプランとは?
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カンガルーケア・ガイドラインを読んでおこう

日本では、カンガルーケア・ガイドラインワーキンググループが作成した「カンガルーケア・ガイドライン」が存在します。これはカンガルーケアの有効性と安全性に関する世界的な知見を参考にしながら、日本で安全にカンガルーケアが行われるように作成されたものです。

対象を低出生体重児、集中治療下にある赤ちゃん、正期産児の3パターンに分けられ、効果や方法、注意点などがまとめられています。インターネットからも閲覧できるため、カンガルーケアを行うか迷っている方は一度出産前に目を通すことをおすすめします。

カンガルーケアの方法

生まれた直後に母親に胸の上で抱きしめられてる新生児

もしカンガルーケアを希望した場合、カンガルーケアはどのように実践されるのか、バースプラン作成中のパパママのシミュレーションも兼ねて、カンガルーケアの具体的な方法を紹介します。

カンガルーケアの実施時間

正期産児向けのカンガルーケアの方法は、生後30分以内にカンガルーケアを行い、2時間程度スキンシップを行うことが推奨されています。できるだけ長い時間赤ちゃんと母親が密着した方が効果的ではありますが、病院よって実施時間には差があるのが現状です。

カンガルーケアを行える条件

カンガルーケアを母親が望んでいたとしても、実際にできるかどうかは医師の判断に委ねられています。出生直後の赤ちゃんの呼吸は不安定なこともあり、注意が必要です。

正産期のカンガルーケアは、絶対に必要なものではありません。赤ちゃんや母親の健康状態を考慮し、医師の判断によってカンガルーケアを行えないこともありえます。

カンガルーケアを行えないケースの例

・妊娠週数や分娩経過に異常がある
・母親に出血、高血圧、痛みなど母親の体調が不安定
・赤ちゃんに奇形や呼吸障害の症状がある
・出産時に吸引分娩を行なったときは医師の判断による
・その他、気になる症状がある場合は医師が判断する

具体的なカンガルーケアの方法

カンガルーケアのイメージとして思い浮かぶのは、新生児を裸で母親が抱っこしている光景でしょう。カンガルーケアの具体的な方法を解説します。

1.裸の状態で母親の胸の上で過ごす

分娩終了後、へその緒を切ったら赤ちゃんはおむつをつけただけの状態で母親の胸の上にうつ伏せに寝ます。その上から、バスタオルをかけたり、締め付けのない衣類を着用し、2時間程度母子ともにゆったりとした時間を過ごします。

2.初回授乳を行う

赤ちゃんは生まれてすぐに母親のおっぱいを探す本能を持っています。赤ちゃんが乳房を探す仕草をし始めたら、母親の乳首を口に入れる手助けをしてあげて初回授乳を行います。

3.病院によっては家族のカンガルーケアが可能なことも

母親がカンガルーケアを行っている間は、パパや他の家族などにも病室で付き添ってもらい、共に赤ちゃん誕生の喜びを分かち合うことが期待されます。病院によってはママがカンガルーケアを行ったあと、パパもカンガルーケアに近い抱っこを行えることもあります。

パパがカンガルーケアを行うときの注意点

パパは基本的には裸と裸の触れ合いではなく、赤ちゃんもパパも服を着た状態で行われます。生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこすることで父性が生まれ、育児に積極的に参加する効果が期待されます。
パパに抱っこをしてもらう場合も、もちろん助産師さんや医師の許可が必要。赤ちゃんの状態が安定している、パパの体調不良がないことが基本です。

帝王切開や低出生体重児でもカンガルーケアは可能?

帝王切開直後で酸素マスクを付けたママさんのカンガルーケア

帝王切開や小さく生まれた赤ちゃんは、カンガルーケアができるのでしょうか?

帝王切開のカンガルーケア

帝王切開で出産した場合でも、カンガルーケアを行うことは可能です。実際に帝王切開後にカンガルーケアを行った方もいますし、母親以外がカンガルーケアを行った実践例もあります。

母乳育児推奨側の意見としては、帝王切開でも30分以内にはカンガルーケアを行った方がよく、リスクが少ない母親や赤ちゃんに対しては初回授乳が終わる頃まではカンガルーケアを続けた方がいいという声も聞かれます。

しかし、帝王切開に関しては安全性、有効性の根拠が不十分だと見解を示している医師もおり、機械によるモニタリングにプラスして必ず助産師など専門家による観察が必要です。帝王切開を予定している方は、主治医に相談しましょう。ただし、術後の体調や麻酔の状態によっては、無理をする必要はありません。

低出生体重児のカンガルーケア

体重が2500g未満で生まれた低出生体重児の場合でも、体温、呼吸、脈拍などが落ち着いていれば安全面に配慮した環境の中でカンガルーケアを行うことは可能です。

ただし、カンガルーケアは低出生体重児の有効なケア方法として用いられてきたという背景がありますが、それはあくまで医療が発展していなかった時代や国による調査結果に過ぎません。

現代のNICUはカンガルーケアよりもよっぽど安全な環境ですから、カンガルーケアのメリットはあくまで愛着形成や母乳育児に限ったものです。実施の場合は、医師による観察やモニタリングが必要であり、実施を推奨しない産院も多いでしょう。

カンガルーケアを行うかどうか事前に夫婦で話し合おう

カンガルーケアは生まれてすぐに母親と赤ちゃんが肌と肌で触れ合うことによって、母親の感情や母乳育児などに良い影響を及ぼすことで知られています。母親と赤ちゃんが幸せそうに抱き合っている表情を写真などで見て憧れを抱く方も少なくないでしょう。

しかし、カンガルーケアは絶対安全だというわけではありません。医院側からは事前にカンガルーケアの効果や危険性についての説明を受け、事前にリスクなどについて正しく知っておき、バースプランを立てる時期などに一度夫婦でカンガルーケアを行うかどうか話し合う時間を設けるといいでしょう。

カンガルーケアをする・しないに関わらず、母子ともに安全で健やかな産後を迎えられることが何よりも大切です。

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